水卜みう 『バンドをクビにされた僕と推しJKの青春リライト』 (スニーカー文庫)

絶対に奈良原時雨をバンドに巻き込んで、彼女を蔑んできた連中にひと泡でもふた泡でも吹かしてやろう。そうして時雨に教えてやるんだ。

――『出過ぎた杭は打たれない』ということを、僕の手で。

26歳のドラマー、芝草融は、メジャーデビュー直前にバンドをクビにされる。夢破れ、アパートでひとり酒に溺れる融は、つけっぱなしのテレビから流れるニュースに目を引かれる。天才として知られるシンガーソングライター、奈良原時雨が自宅マンションから飛び降りたというのだ。唯一の心の拠り所を失った融は、後を追うようにアパートから飛び降りる。気がつくと、融は高校一年の頃にタイムリープしていた。

メジャーデビューの条件に追放された人生二回目のドラマーは、破滅の未来を避けるため、孤独な天才シンガー、権力者の親に反抗する不良少女と青春をやり直す。実在のバンドや楽曲を引用しつつ語られる、高校生バンドの青春の数ヶ月。第8回カクヨムWeb小説コンテストエンタメ総合部門特別賞。タイムリープ青春小説としてはオーソドックスなタイプだと思う。語り手が大人なのですいすいと話が進むし、他の大人たちも基本的に子供たちの良き理解者として描かれているので、変なストレスがないのは良い。素直さ故に多少物足りなさがあるのはわがままなのかもしれない。よかったです。