朝田雅康 『二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない』 (スーパーダッシュ文庫)

委員長? 何をふざけたことをいっているのか。こいつの脳みそは茹で上がっている! 性悪で、クソで、好き勝手やりやがって。君は将来、どっかのヤク中に刺されてのたれ死ぬのがオチなんだよ。

私立伯東高校二年四組は,教員から「腐ったリンゴ」と呼ばれる問題児ばかり35人を集めたクラス.新学期がはじまった4月,委員長はクラス全員で交換日記をつけることを提案する.

一日ごとに書き手がバラバラに変わる交換日記から,クラス35人が関わる進行形の複数の事件が浮かび上がる.第9回スーパーダッシュ小説新人賞佳作受賞作.書き手も読み手も名前を意図的に伏せられた交換日記形式という,面白い試みをしている群像劇.主人公が35人いる名前当てパズルであり,一冊まるごと読者への挑戦状でもある.

話そのものはよく言えばわちゃわちゃ,悪く言うと散漫なのだけど,二年四組の35人がそれぞれに持つ得体の知れなさは十分に出ていて楽しかった.他にない挑戦的なことをやっているだけに,作者がこの一冊しか書いていないようなのが残念.

喜多川信 『空飛ぶ卵の右舷砲』 (ガガガ文庫)

空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫)

空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫)

小型ヘリOH-6D改――〈静かなる女王号〉を操り、ヤブサメは樹竜の後ろを取った。

「行きますよ、船長」

遠い未来.人造の豊穣神,ユグドラシルによって繁栄を享受していた人類は,「大崩壊」によって陸を追われ,海上都市で暮らすようになっていた.小型ヘリ〈静かなる女王号〉の船長モズと副操縦士のヤブサメは,東京第一空団の依頼を受けて旧新宿の探索作戦に参加することになる.

陸に住めなくなり海上で生活するようになっても,人類はヘリを駆ってたくましく生きていた.12回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作は,右舷に40ミリ砲を備えた卵型ヘリの活躍を描くポストアポカリプス.海上都市にヘリコプターや陸の植物怪獣など,オーソドックスにまとまっていると思う.いろいろなガジェットが出るわりには,そのガジェットへのフェティッシュさがもうひとつな気がした.悪くはないんだけども,個人的には引っかかるところが少なかったかなあ.

伊達康 『瑠璃色にボケた日常』 (MF文庫J)

瑠璃色にボケた日常 (MF文庫J)

瑠璃色にボケた日常 (MF文庫J)

  • 作者: 伊達康,えれっと
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / メディアファクトリー
  • 発売日: 2012/11/30
  • メディア: Kindle版
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「だから私は言ってる。君は理由付けを間違った。改めて決め直して納得してしまえ、と」

それを俺が決めていいのか。小田切の意思を、コロコロ勝手に変えていいというのか。

「いいのさ。死人には意思などないのだから。この世とは生者のものだ。死人に主張する権利などない」

高校生の紺野孝巳は,日々枕元に立つ友人の幽霊に悩まされていた.ある日,孝巳は校内にお祓い研究会があることを知る.だがその部室を訪ねた孝巳に霊能者・有働瑠璃が言うには,ここはお祓い研究会ではなくお笑い研究会であるという.

「おはらい」を求めて出かけたら「おわらい」の一員にされたでござる.第8回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作.タイトルはこんなだけど,独特の主張を持った良い幽霊ものだと思う.この世は生者のものであり,死人は意思を持たない.生者が勝手に理由付けしているだけ,そこを間違えるな,というスタンス.それをお笑いというオブラートでくるみながら,どこか冷めた言葉で語っていく.作品のテーマの強さが,そのままヒロイン瑠璃の存在感を表している.

あらすじを斜め読みして日常系かと思っていたら,「お笑い」と「お祓い」の理由付けがしっかり取れた話でとても良かった.玄関の靴箱の上に丸六年積んで,毎日目にしながらそのままにしていたのが申し訳ない.続きも買います.

野﨑まど 『バビロン III ―終―』 (講談社タイガ)

バビロン3 ―終― (講談社タイガ)

バビロン3 ―終― (講談社タイガ)

「神様のものだから奪うのは駄目というのは、わかるよ」オリバーは考えを言葉に変えていく。「けれど納得しきれない感じもする。僕が“神様のものだから自殺は駄目だ”って説明しても、きっと友達を納得させられないと思う。なんというか、考えることをよそに押し付けた感じがするんだ。答えが出ていないのに、考えるのをやめてしまっている気がする」

“新域”で発令された「自殺法」.その影響は世界中に伝播し,新法に追随する都市が各国に現れはじめた.米国大統領は自殺の是非について話し合うべく,ニューヨークでのG7開催を決定する.その裏で,新域域長の齋開化は,自殺法を導入した都市の首長を集めた「自殺法都市首長会議」の開催を宣言する.

世界各国の首脳が集まったサミット.世界最高の指導者たちによって答えが出される「善」と「悪」の本質.それをあざ笑うかのように訪れる最悪の「終」.舞台を日本からアメリカに移して描かれるシリーズ第三巻.

時代が変われば価値観も善悪の基準も変わる,ではその根っこにあるものとは何なのか.概念的なものとは言え,変にごまかさずにひとつの答えを導き出すのがすごい.考えることに対する真摯な姿勢が垣間見える.本当に大傑作だと思います.

瀬尾つかさ 『横浜ダンジョン 大魔術師の記憶』 (スニーカー文庫)

横浜ダンジョン 大魔術師の記憶 (角川スニーカー文庫)

横浜ダンジョン 大魔術師の記憶 (角川スニーカー文庫)

すでに終電が近い時間だ。閑散とした通りを歩き、ドーム状の建物の前にたどり着く。

かつて、ここには横浜スタジアムという野球場があったという。

二十年前、その空間が、ほかの時空と重なり合った。

20年前.原理不明の時空のねじれによって,世界にいくつものダンジョンが出現した.ダンジョンから現れる怪物たちは,ダンジョンの出現と同じ時期に生まれ星繰り人(ルーンハンドラー)と名付けられる力を持つ子供たちでなければ傷をつけることもかなわない.そんな世界の横浜で,高校生の黒鉄響は,自分の星繰り人(ルーンハンドラー)の力と,前世の記憶を隠したまま生活を送っていた.

横浜に出現した横浜大墳墓の探索と,その周辺を描く前世もの.最近は異世界転生ものが強いので前世ものは珍しい,かもしれない.転生者である主人公が強く,文字通り無敵.意図してそうしているのは分かるのだけど,緊張感を維持するのが難しいし,ちと退屈だった.ダンジョン周辺の人間同士のいざこざとか,やるべきことをすべてやってて過不足はないんだけども,この一巻の時点では新鮮味もほぼなかった.