暁雪 『今日から俺はロリのヒモ!』 (MF文庫J)

今日から俺はロリのヒモ! (MF文庫J)

今日から俺はロリのヒモ! (MF文庫J)

締め切りを設定せず、まわりに娯楽が勢ぞろいして、ついでに言うとこれからの人生が保障されている状態になったとき。

――漫画家は、漫画を描かなくなる。

なんとなく漫画家になりたかった高校生,天堂ハルは,たまたま街で出会った天才女子小学生,二条籐花にパトロンになってもらう.衣食住が半永久的に保障されたハルは高校を中退し,漫画描きとオタク活動に耽溺する日々が始まるのだった.

一日に二億を稼ぐ女子小学生の庇護のもと,ヒモとしてのただれた日々を描く.ストーリーは思った以上にタイトル通り.挫折とか努力といったものはほとんど語られず,ある種の淡々さをもって進むのはデビュー作からの変わらぬ傾向ではある.全体に漂う一種異様な雰囲気はイラストのへんりいだの貢献が大きいのではないかと思う.

不特定多数の読者たちではなく,たったひとりのロリのために描けばいい,という結論はわりと好き.そこに至るまでがしょうもないといえばそのとおりなんだけど,読み終わってみると意外と悪くなかったのです.



kanadai.hatenablog.jp

倉田タカシ 『うなぎばか』 (早川書房)

うなぎばか

うなぎばか

わたしは、ほそながーい形をしたロボットです。色は黒いです。体をくねくねと曲げられます。

頭に近いほうに、小さなひれがついています。なにに似てるかというと、うなぎに似ています。

そうです、あの、何年もまえに絶滅した、おいしい魚です。

おいしいからって食べつくしちゃうなんて、人間はすこしおバカなのかな?

うなぎ屋を廃業した父の残したうなぎのたれをめぐるドタバタを描く表題作「うなぎばか」.土用の丑の日をなくすべく平賀源内に会いに行く時間SF,という無難なアイデアが思いがけない方向にかっ飛んでいく「源内にお願い」.ひとり海をゆくうなぎロボの叙述ログを描いた「うなぎロボ、海をゆく」.代用うなぎを求めてジャングルに向かうOL一行が見たものとは,「山うなぎ」.うっかりやらかした神様の願い事「神様がくれたうなぎ」

「もしも、うなぎが絶滅してしまったら――そのとき、わたしたちは何を想うのか?」.人類の手によってうなぎが絶滅した,ポストうなぎの世界の出来事を描く短編五篇.語られるのは絶滅してしまった生物,途絶えてしまった文化,食べられなくなってしまった食べ物への郷愁と思い出.ユーモアたっぷりで,ちょっと切なくて,不思議に優しい.うなぎのようにするりと読める,今の季節にぴったり.夏休みの課題図書にもよさそう.しみじみと良いSF短篇集でございました.

水内あかり 『俺ンタル! レンタル男子はじめました』 (一迅社文庫)

俺ンタル! レンタル男子はじめました (一迅社文庫)

俺ンタル! レンタル男子はじめました (一迅社文庫)

「男のムスメと書いて、『オトコの娘』。女装が似合うキレイな男子のこと。今、世間的にも認知されてて、それどころかブームになりつつあるのよね♪ やっと、時代が私に追いついてきたってところかしら?」

家庭の事情でアメリカに引っ越したものの,まったく肌に合わずにひとり帰国してきた高校生の有馬要.彼が日本で生活する条件は,女装をしてお嬢様学園に編入することだった.

男の娘として女子校に潜入したのに,なぜかレンタル男子として都合よくこき使われる羽目になったでござるの巻.テンションのむちゃくちゃ高い語り手が,女の子たちに好き勝手振り回される.お気軽で毒にも薬にもならないこの感じ.嫌いではないけど,ひとにすすめるものではないよね,という.

朝田雅康 『二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない』 (スーパーダッシュ文庫)

委員長? 何をふざけたことをいっているのか。こいつの脳みそは茹で上がっている! 性悪で、クソで、好き勝手やりやがって。君は将来、どっかのヤク中に刺されてのたれ死ぬのがオチなんだよ。

私立伯東高校二年四組は,教員から「腐ったリンゴ」と呼ばれる問題児ばかり35人を集めたクラス.新学期がはじまった4月,委員長はクラス全員で交換日記をつけることを提案する.

一日ごとに書き手がバラバラに変わる交換日記から,クラス35人が関わる進行形の複数の事件が浮かび上がる.第9回スーパーダッシュ小説新人賞佳作受賞作.書き手も読み手も名前を意図的に伏せられた交換日記形式という,面白い試みをしている群像劇.主人公が35人いる名前当てパズルであり,一冊まるごと読者への挑戦状でもある.

話そのものはよく言えばわちゃわちゃ,悪く言うと散漫なのだけど,二年四組の35人がそれぞれに持つ得体の知れなさは十分に出ていて楽しかった.他にない挑戦的なことをやっているだけに,作者がこの一冊しか書いていないようなのが残念.

喜多川信 『空飛ぶ卵の右舷砲』 (ガガガ文庫)

空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫)

空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫)

小型ヘリOH-6D改――〈静かなる女王号〉を操り、ヤブサメは樹竜の後ろを取った。

「行きますよ、船長」

遠い未来.人造の豊穣神,ユグドラシルによって繁栄を享受していた人類は,「大崩壊」によって陸を追われ,海上都市で暮らすようになっていた.小型ヘリ〈静かなる女王号〉の船長モズと副操縦士のヤブサメは,東京第一空団の依頼を受けて旧新宿の探索作戦に参加することになる.

陸に住めなくなり海上で生活するようになっても,人類はヘリを駆ってたくましく生きていた.12回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作は,右舷に40ミリ砲を備えた卵型ヘリの活躍を描くポストアポカリプス.海上都市にヘリコプターや陸の植物怪獣など,オーソドックスにまとまっていると思う.いろいろなガジェットが出るわりには,そのガジェットへのフェティッシュさがもうひとつな気がした.悪くはないんだけども,個人的には引っかかるところが少なかったかなあ.