倉田タカシ 『うなぎばか』 (早川書房)

うなぎばか

うなぎばか

わたしは、ほそながーい形をしたロボットです。色は黒いです。体をくねくねと曲げられます。

頭に近いほうに、小さなひれがついています。なにに似てるかというと、うなぎに似ています。

そうです、あの、何年もまえに絶滅した、おいしい魚です。

おいしいからって食べつくしちゃうなんて、人間はすこしおバカなのかな?

うなぎ屋を廃業した父の残したうなぎのたれをめぐるドタバタを描く表題作「うなぎばか」.土用の丑の日をなくすべく平賀源内に会いに行く時間SF,という無難なアイデアが思いがけない方向にかっ飛んでいく「源内にお願い」.ひとり海をゆくうなぎロボの叙述ログを描いた「うなぎロボ、海をゆく」.代用うなぎを求めてジャングルに向かうOL一行が見たものとは,「山うなぎ」.うっかりやらかした神様の願い事「神様がくれたうなぎ」

「もしも、うなぎが絶滅してしまったら――そのとき、わたしたちは何を想うのか?」.人類の手によってうなぎが絶滅した,ポストうなぎの世界の出来事を描く短編五篇.語られるのは絶滅してしまった生物,途絶えてしまった文化,食べられなくなってしまった食べ物への郷愁と思い出.ユーモアたっぷりで,ちょっと切なくて,不思議に優しい.うなぎのようにするりと読める,今の季節にぴったり.夏休みの課題図書にもよさそう.しみじみと良いSF短篇集でございました.