深見真 『ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査』 (角川文庫)

ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査 (角川文庫)

ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査 (角川文庫)

「警察が……こんな、暴力……」

「許されるよ」と、武智は井上の髪の毛をつかんで引き寄せた。強く引っ張られて、井上は痛みにうめく。「警察は身内に甘いし、お前はくそったれの買春野郎だ。しかも未成年に暴力を振るった。ぶっ殺してもどうにかごまかせる」

港区中部を管轄する麻布警察署.刑事課二係のエース,仙石重一警部補は,六本木で起こる犯罪を揉み消すことでカネを稼いでいた.警視庁監察官室の細川巡査部長は,二係の汚職を暴くべく,仙石の部下として潜入捜査を行うことになる.

悪徳のカリスマに水面下で挑む潜入監察官は,やがて逃げられない深みへと沈んでいく.まさに「深淵をのぞく時,深淵もまたこちらをのぞいているのだ」を地で行くような展開の,汚職と暴力にまみれた警察小説.手癖で書いたような印象もあるけど,そのぶん安定してまとまっていると思う.

旭蓑雄 『レターズ/ヴァニシング2 精神侵食』 (電撃文庫)

レターズ/ヴァニシング2 精神侵食 (電撃文庫)

レターズ/ヴァニシング2 精神侵食 (電撃文庫)

「錬金術の理想とは、元素の結合や離反によってあらゆる現象が起こっているなら、その元素を掌握することで、すべてを意のままにできるというところにあります。ときには“創造主”にすらなれる、と」

「何だか、世界言語みたいだね」

神戸を中心に,世界言語を使用できる人間――オフスプリオリ――を狙う連続殺傷事件が発生した.特殊研究施設マルガレーテの能力者,千里は,警察の要請により捜査に協力することになる.あらゆる世界言語に干渉できる少女,語羅部鵬珠をパートナーに連れて明石特区を出た千里たちに,正体不明の能力者が襲いかかる.

世界を構成するという「世界言語」の存在を軸に,人工知能や言語や脳に関連した話が複雑に交差する.ハイブリッド臓器と人工臓器倫理委員会.最新のネットゲームであるレギオンエンジン.保存した“記憶”をコンパイルする“整列のプログラム”.人工臓器から生まれたために二つの時間軸を認識できるキメラ人間.世界言語を使って世界を“ウィジウィグする”.そして,これらを用いて現実のものになろうとしている不老不死.

情報量やキーワードは非常に多く,人間関係も狭い中で複雑に交錯するのでわちゃわちゃした印象があるものの,それぞれの概念はシンプルでわかりやすくまとめていると思う.何より,哲学用語やプログラミング用語を交えた語りがいちいち刺激的で,むちゃくちゃ面白い.同じテーマをもう少し絞ってわかりやすく書きくだすと『青春デバッガーと恋する妄想 #拡散中』になるのかな.いまいろいろとホットな百合SFでもあるので,一巻と合わせて皆も読むといい.間違いなく意欲作だし傑作ですよ.



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赤城大空 『出会ってひと突きで絶頂除霊! 4』 (ガガガ文庫)

出会ってひと突きで絶頂除霊! (4) (ガガガ文庫)

出会ってひと突きで絶頂除霊! (4) (ガガガ文庫)

『セックスしないと出られない部屋』

晴久の腕に取り憑いている謎の少女,ミホト.魔族も圧倒するその力を危惧した退魔師協会は,十二師天に処遇を一任する.美咲が持つ宗谷の血の力で,晴久の絶頂除霊(テクノブレイカー)の力を制御することができなければ,晴久は処分されてしまう.試練を受けることを決めたふたりは,いきなり「セックスしないと出られない部屋」に閉じ込められてしまう.

主人公とヒロインがセックスしないと出られない部屋に閉じ込められるという,ライトノベルにあるまじき直球のピンチが描かれる.肌色多めの退魔伝奇アクション第四巻.退魔師協会の十二師天.天から降りてきた神と同居する天人降ろし.性欲を霊力に変換する媒体である人式神.悪霊を取り憑かせたラブドールの大群.霊体に強い偏愛を抱くゴーストフィリア.エロとシモは多めだけど,これが読んでみるとしっかり伝奇小説をやっている.それどころか,伝奇アクションとエロスが濃密に結びついていて,不可分になっている印象まである.ひょっとして山田風太郎の後継者のひとりなのではなかろうかと.巻を追って面白くなっているし,あらすじを読んで抵抗がなければ今から追いかけてみるのもいいのではないでしょうか.引き続き楽しみにしております.

有丈ほえる 『救世主だった僕が三千年後の世界で土を掘る理由2』 (講談社ラノベ文庫)

救世主だった僕が三千年後の世界で土を掘る理由2 (講談社ラノベ文庫)

救世主だった僕が三千年後の世界で土を掘る理由2 (講談社ラノベ文庫)

「文明が滅んでしまった理由を知りたいのです。そうして、一つの問いに答えを見出したい――果たして、あらゆる文明は滅びを前提として生まれるのか? もし、そうじゃないのなら、不滅の文明に必要な条件とはなんなのか――」

人造人間リュトと行動をともにする考古学者のニナ,アイルは,アカデミーの依頼を受けて,千年前に行方をくらました伝説の英雄,サイトバル将軍の足跡を追うことになる.将軍が眠ると目される古戦場に向かった一行は,そこで遭遇した発掘村をベースに発掘を行うことになる.

千年前に失踪した英雄の真実,そして現代まで生きていた千年前の陰謀とは.2ヶ月連続刊行の2巻.あとがきで「三巻の刊行が未定のため,三巻が出るのであれば一番面白くなるプロットを書いた」とぶっちゃけており,なるほどあちこちに未回収の伏線がばらまかれていることが見て取れる.物語自体は悪くないと思うのだけど,話作りは悪い意味でスケールを感じない.せっかく人間に変わって外来知性体(宇宙人)が地球の霊長になったというのに,やっていることは同類同士でのケチくさい権力争いばかりだし,言葉は日本語(と明記されている)だし.続きが気にならないわけではないけど,このままだとストレスのほうが強い.この設定ならもっと面白い話ができそうなのに,もったいないなあと.



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海津ゆたか 『NGな彼女。は推せますか?』 (ガガガ文庫)

NGな彼女。は推せますか? (ガガガ文庫)

NGな彼女。は推せますか? (ガガガ文庫)

「……絶対に諦めないぞ。俺は証明するんだ。アイドルは世界を変えられるって」

アイドルを愛しアイドルを信じる男,中嶋拓人は,高校の合格発表で出会った少女を理想のアイドルにすることを決意する.青春に飢える地味少女,滝沢一花をプロデュースするべく,音痴なパンクロッカー,中二病のファッションデザイナー,元ドルオタが集結する.

学園都市を舞台にした,プロデューサーとスタッフとアイドルの物語.アイドルはきっと世界を変えられる,というテーマはオーソドックスなものだと思うんだけど,動機づけや舞台となる学園の設定に強引な印象が強い.というより蛇足が多いかなあ.ポイント制や特殊な学園都市がストーリーを面白くしているようには見えず,ストレスになっている部分のほうが強かったような.