枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #07』 (スニーカー文庫)

終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#07 (角川スニーカー文庫)

終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#07 (角川スニーカー文庫)

ただの善人、ただ自分を犠牲にして世界を救おうとしている英雄であれば、まだましだった。それならば、善性を食い物にして戦っている護翼軍の悪辣さを責め立てる記事を書くことで、いくらでも上っ面の話題を狙えた。しかしあの少女は、そういうわかりやすい善性を見せてはくれなかった。

あれは、そう。

世界に対する、無関心だ。

堕鬼の少年は,ひとりの少女を英雄に仕立て上げ,世界から姿を消した.世界が英雄に守られていることを知った浮遊大陸群(レグル・エレ)はわずかな希望に湧く.パニバルとコロン,ふたりの黄金妖精(レプラカーン)は,〈十一番目の獣〉(クロワイヤンス)によって完全に侵食された39番浮遊島に立つ.

命の価値を理解しない存在は英雄たりうるのか.「心を繋いで束ねる」こと,信仰することの尊さと,その裏返しの危うさを描く,「終わったはずの物語の蛇足」.一冊の中でのテーマがはっきりしているせいか,心なしかロジカルにまとまっていたような気がする.死ぬことが当たり前だった重苦しい物語にも,ひょっとしたら何かしらの希望が芽生えつつある,のかもしれない.

2018年の二十冊

今年読んだ本のおおよそのベスト20順不同です.感想は検索からお願いいたします.

  1. 瘤久保慎司 『錆喰いビスコ』 (電撃文庫)
  2. 鳩見すた 『地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD-』 (電撃文庫)
  3. 古橋秀之 『百万光年のちょっと先』 (集英社)
  4. 石川宗生 『半分世界』 (創元日本SF叢書)
  5. 名倉編 『異セカイ系』 (講談社タイガ)
  6. 旭蓑雄 『青春デバッガーと恋する妄想 #拡散中』 (電撃文庫)
  7. 大澤めぐみ 『君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主』 (スニーカー文庫)
  8. 斜線堂有紀 『私が大好きな小説家を殺すまで』 (メディアワークス文庫)
  9. 高島雄哉 『ランドスケープと夏の定理』 (創元日本SF叢書)
  10. まほろ勇太 『絶対彼女作らせるガール!』 (MF文庫J)
  11. 手代木正太郎 『魔法医師の診療記録』 (ガガガ文庫)
  12. カミツキレイニー 『それでも異能兵器はラブコメがしたい』 (スニーカー文庫)
  13. かめのまぶた 『エートスの空から見上げる空 老人と女子高生』 (ファミ通文庫)
  14. 宮入裕昂 『スカートのなかのひみつ。』 (電撃文庫)
  15. 松村涼哉 『1パーセントの教室』 (電撃文庫)
  16. 深沢仁 『英国幻視の少年たち』 (ポプラ文庫ピュアフル)
  17. 遍柳一 『ハル遠カラジ』 (ガガガ文庫)
  18. 谷山走太 『ピンポンラバー』 (ガガガ文庫)
  19. 倉田タカシ 『うなぎばか』 (早川書房)
  20. 本田壱成 『終わらない夏のハローグッバイ』 (講談社タイガ)

錆喰いビスコ (電撃文庫) 地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫) 百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS) 半分世界 (創元日本SF叢書) 異セカイ系 (講談社タイガ) 青春デバッガーと恋する妄想 #拡散中 (電撃文庫) 君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主 (角川スニーカー文庫) 私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫) ランドスケープと夏の定理 (創元日本SF叢書) 絶対彼女作らせるガール!2 (MF文庫J) 魔法医師の診療記録7 (ガガガ文庫) それでも異能兵器はラブコメがしたい (角川スニーカー文庫) エートスの窓から見上げる空 老人と女子高生 (ファミ通文庫) スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫) 1パーセントの教室2 (電撃文庫) (P[ふ]4-6)英国幻視の少年たち6: フェアリー・ライド (ポプラ文庫ピュアフル) ハル遠カラジ (ガガガ文庫) ピンポンラバー (ガガガ文庫) うなぎばか 終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)

川岸殴魚 『編集長殺し4』 (ガガガ文庫)

編集長殺し (4) (ガガガ文庫)

編集長殺し (4) (ガガガ文庫)

「まあ、なにをしたか知らないけど、それだけちゃんと腐った目をしてるってことは、悪い憑き物は去ったみたいね」

憑き物が去って、ちゃんと腐った目になる。なるほど……。ちゃんと……。

どんな業界でしょうか!

若手のデザイナーと組んで,新刊ライトノベルの表紙をデザインすることになった川田.しかし,自身を持って編集長に提出したデザイン案は却下されてしまう.ふたりはオシャデザ魔&サブカル魔に取り憑かれてしまっていたのだ.

ライトノベルの編集部を描いたブラックコメディ第四巻.編集部はますますブラックさを増し,憎める新人は暴走を繰り返す.性的な表紙デザインという時事(炎上)ネタをはじめとした毒を含んだあるあるネタを,キレのあるコメディに仕立て上げる腕はいつもながら見事.感想は毎回同じ感じになっちゃうのは仕方ないね.お気楽で楽しゅうございます.

さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 3時間目』 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 3時間目 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 3時間目 (MF文庫J)

兼業作家の筆の遅さをたたくのに、どうか読者諸氏はスポンジバット並みに柔らかい言葉を使用していただきたい。野蛮なインターネットジャングルでは生き残ることのできない可哀想な生き物なのだ。

進学塾TAX調布校の事務室に,差出人不明の謎の手紙が現れた.府中校を揺るがし,崩壊に導いた手紙文化が輸入されたかと戦々恐々の講師一同.不正を未然に防ぐべく,ロジカルマンは教室管理を強化するが,小学生たちの人間関係はギスギスを増してゆく.

謎のラブレターの差出人は誰なのか.対照的なふたりのポンコツ少女探偵の推理と,意外な真相とは.二巻の解説で「人間不信」という補助線を引いてもらったおかげで,だいぶ物語のベースがわかりやすくなった気がしている.大人にだっていろいろ事情はあるし,大人だって人間なのだ,みたいな.主人公で語り手である天神の精神が(比較的)安定していたためか,いくらか穏やかな雰囲気にも感じられたのだけど,どうやら嵐の前の静けさのようで.続きを楽しみにしています.

理性を喪わせるほどの想いに、初めて溺れながら書いた恋文。

それはすべて、逆効果でしかなく。

現実は残酷だ。

夢は叶わない。想いは伝わらない。伸ばした手は届かない。

むきだしの恋は、気持ち悪い。



直接は関係ないけど,塾運営のあたりは↓の記事を思い出しながら読みました(肌感覚はかなり近いものがあると思う).
anond.hatelabo.jp

遍柳一 『ハル遠カラジ2』 (ガガガ文庫)

ハル遠カラジ (2) (ガガガ文庫)

ハル遠カラジ (2) (ガガガ文庫)

変わりゆく娘の姿がどうしようもなく嬉しくて、そして、寂しかった。

そういう感情が自然と胸に湧いたことが、私をかえって安心させた。

――きっと、これでいい。これでいいのだ。

そう心に言い聞かせ、いつか私の知らない場所で輝く娘を夢想しながら、残りの仕事に勤しむハルの姿を、私は目に焼き付けていた。

人工知能の精神障害,AIMDを治療できる医工師を探し,テスタたちは冬のチベットを訪れていた.イリナとのふれあいによって,徐々に人間への興味を持ち始めていたハルを連れて,廃墟となった学校を探索していた一行は,何者かの操るパワードスーツの襲撃を受ける.

人類が消失してから11年.娘を育て続けた人工知能と,変わり果てた世界についての物語.親の目線で娘を見つめる,ただただ穏やかなテスラの語りは読んでるだけでじんわりしてくるし,人間に絶望したままあっけなく死んでいった主人に寄り添った人工知能の苦悩は腹に重く来るものがある.なんというか,語りが抜群にうまいと思うのだ.穏やかなんだけど,感情の浮き沈みが手に取るように見えて,素直に感情に訴えかけてくる.

人間が人間に対して犯してしまった贖いきれない罪や,人間が機械知性に決して明け渡してはいけなかったものといったテーマについて,簡潔でカジュアルに語っているのも良い.切なさと希望が同居した,良い物語だと思っています.

『ひとりひとりの罪は、きっと小さなものだったはずだ。けれど、それが積み重なって出来た途方もなく業の深い罪を、果たして個々人が負担してくれることなどあり得るだろうか。そんなことは決してない。誰だって、最後には部外者のフリをするんだから』



kanadai.hatenablog.jp