- 作者: 遍柳一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2018/12/18
- メディア: 文庫
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変わりゆく娘の姿がどうしようもなく嬉しくて、そして、寂しかった。
そういう感情が自然と胸に湧いたことが、私をかえって安心させた。
――きっと、これでいい。これでいいのだ。
そう心に言い聞かせ、いつか私の知らない場所で輝く娘を夢想しながら、残りの仕事に勤しむハルの姿を、私は目に焼き付けていた。
人工知能の精神障害,AIMDを治療できる医工師を探し,テスタたちは冬のチベットを訪れていた.イリナとのふれあいによって,徐々に人間への興味を持ち始めていたハルを連れて,廃墟となった学校を探索していた一行は,何者かの操るパワードスーツの襲撃を受ける.
人類が消失してから11年.娘を育て続けた人工知能と,変わり果てた世界についての物語.親の目線で娘を見つめる,ただただ穏やかなテスラの語りは読んでるだけでじんわりしてくるし,人間に絶望したままあっけなく死んでいった主人に寄り添った人工知能の苦悩は腹に重く来るものがある.なんというか,語りが抜群にうまいと思うのだ.穏やかなんだけど,感情の浮き沈みが手に取るように見えて,素直に感情に訴えかけてくる.
人間が人間に対して犯してしまった贖いきれない罪や,人間が機械知性に決して明け渡してはいけなかったものといったテーマについて,簡潔でカジュアルに語っているのも良い.切なさと希望が同居した,良い物語だと思っています.
『ひとりひとりの罪は、きっと小さなものだったはずだ。けれど、それが積み重なって出来た途方もなく業の深い罪を、果たして個々人が負担してくれることなどあり得るだろうか。そんなことは決してない。誰だって、最後には部外者のフリをするんだから』