屋久ユウキ 『弱キャラ友崎くん Lv.7』 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.7 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.7 (ガガガ文庫)

もし、この直感が正しいのなら。

この脚本はきっと、空想を展開させて描き出した、ただのフィクションではない。

きっと、自分の身を削るようにしてキャラクターを生み出して、過去の経験の一つ一つを濾過して、結晶化したような、大切な物語。

みみみからの突然の告白に混乱する友崎に新しく与えられた課題.それは,「攻略対象」を二人以上選ぶということ.日南に二人の「攻略対象」を伝えた友崎は,新たなイベントを与えられる.慌ただしい日々が過ぎ,一度きりの文化祭が始まろうとしていた.

生まれてからずっと染み付いていた「俺なんか」という弱キャラ根性.それを捨てて,自分の意志で誰かを「選ぶ」こと.そこに特別な理由が必要なのか? 菊池さんとの演劇脚本作り,みみみとの漫才練習を通じて,葛藤を一歩乗り越える第七巻.いやー,集大成.これぞ青春の悩み.「世界という物語に誠実でいたい」という作中の言葉を,そのもので体現した作品になっていると思う.

理想と感情,両方を手に入れるためのたったひとつの方法がある,この言葉に説得力があった.そして演劇の描写とセリフに乗せて心情を描いていく場面の迫力.演劇か舞踏会の場面があるライトノベルはだいたい傑作,という自分が提唱している法則が今回も守られた.ゲームのプレイヤー目線で「人生」を見ることの意味が改めて掘り下げられる.今までも良かったのだけど,さらに一皮むけた感がある.改めて良い青春小説だし,続きがさらに楽しみになりました.

高木敦史 『僕は君に爆弾を仕掛けたい。』 (スニーカー文庫)

僕は君に爆弾を仕掛けたい。 (角川スニーカー文庫)

僕は君に爆弾を仕掛けたい。 (角川スニーカー文庫)

「ねえ。これから先、しっかり手伝ってもらうからね」

「何を?」

「怪物退治。学校から悪意を消して、私が保健室登校を辞められる日が来るまで」

「私と目を合わせた人は、みんな私を嫌いになる」.ある理由から学校に爆弾を仕掛けた中学生の笹子は,保健室登校の小手毬に爆発前の爆弾を見つけられてしまう.小手毬の真っ黒な瞳には,フラットウッズの宇宙人が写っていた.

形を持った学校の「悪意」と謎を解決してゆく.少し不思議な学園ミステリ.とりあえずヒロインのマリマリこと小手毬真理花がかわいらしい.知らないひとの前では弱気なのに,保健室では好き勝手なかまってちゃん.主人公を振り回しながら,たまに暴走する.典型的なキャラクターではあるのだけど,落ち着きとひねくれが同居した作者独特の語りがうまく,読んでいていやみがない.キャラクターと事件の両方に,不思議な印象を残すラブコメ……にとどまらないなにかになっていると思う.なかなか一言で表しにくいのだけど,とりあえずいろんな層に読んでもらいたい気がしております.

吉野匠 『ユート 拉致から始まる異世界軍師2』 (このライトノベルがすごい!文庫)

ユート 拉致から始まる異世界軍師 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

ユート 拉致から始まる異世界軍師 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

この世界、つまりユートが今いるエンボス大陸だけではなく、ガルシア四大陸と呼ばれる広大な世界において、異世界から人が迷い込むのは、時折あることらしい。まあ、せいぜいが年に一度あるかないかの頻度ではあるが、皆無ではないのだ。

帝国との戦争で戦果を上げた秋山優人はリュトランゼ王国の軍務大臣へと出世を果たしていた.訪れた平和にすっかり暇を持て余すユートの前に,予言者を名乗る少女,ジュリエットが現れる.

昨年亡くなった吉野匠の異世界転生ファンタジー.露骨に説明調のハーレムもの.主人公の目線が露骨にエロい方向に向いている.ラッキースケベの描かれ方には2015年とは思えない古臭さがある.著作は何冊か読んでいるけれど,成長がぜんぜん見えなかったなあ…….

日下一郎 『妹戦記デバイシス』 (スマッシュ文庫)

妹戦記 デバイシス

妹戦記 デバイシス

(妹)(わたし)たちはね、関係性の上に構築された生命なの。

人類が物質上に構築された生命であるようにね。

そして、人類が生存のため、自己以外の物質からのエネルギーを必要とするように、(妹)(わたし)たちも自己以外の関係性からのエネルギーを必要とする。

世界が異世界からの侵略者アウタ・シスの侵略を受けてから3年.地球の半分は不可侵領域「妹圏(シス・ゾーン)」に覆われていた.「妹」の持つポテンシャルを妹機関(シス・ドライブ)に転用することに成功した人類は,最後の希望とともに「妹」への反攻を開始する.

人類と「妹」の最終戦争が始まる.どことなく『蒼穹のファフナー』っぽさを感じる侵略SF.自らを「妹」と強制認識させる侵略者アウタ・シス.見るだけで汚染し感染する概念侵略兵器.まったく異なる生態を持つ人類と「妹」との対話.オーソドックスながら水準以上にまとまっていると思うのだけど,ギャグのセンスが合わないのがつらい.気にしないひとは気にしないだろうけど,話の流れからあまりに浮いていた.妹力(シス・フォース)妹龍(マイバーン)という言葉遊びはいいとして,序文とかMSXへのこだわりとかはいらなかったよなあ.

三方行成 『流れよわが涙、と孔明は言った』 (ハヤカワ文庫JA)

流れよわが涙、と孔明は言った (ハヤカワ文庫JA)

流れよわが涙、と孔明は言った (ハヤカワ文庫JA)

さあさ、楽しいお話のはじまり始まり。

こいつは世にも珍しい、車とつがうドラゴンの物語だ。

馬謖の首がどうしても斬れない,やたら泣き虫な孔明が試行錯誤するうちに並行宇宙を渡ることになる表題作「流れよわが涙、と孔明は言った」から始まる,作者の第二短篇集.アルキメデスと「走れメロス」を合成したようなトンチキな「走れメデス」,折り紙と食堂をめぐる短篇内短篇「折り紙食堂」.「人は死んだら電柱になる」をテーマにしたアンソロジーからの抜粋「闇」は,闇とそこに潜む何者かに覆われた世界の静けさと不気味さが心に残る.ドラゴンカーセックスをファンタジーに仕立て上げた「竜とダイヤモンド」はこの短篇集のベストかな.ドラゴンの生態を描いていくことで,ドラゴンが自動車とセックスする理由をごく自然に物語に昇華している.まさかこんな風に感心してしんみりしてほんわかするいい話になっているとは.デビュー作『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』よりもバリエーションに富んでおり,個人的に好みの話が多かった.よかったです.



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