赤城大空 『出会ってひと突きで絶頂除霊!5』 (ガガガ文庫)

出会ってひと突きで絶頂除霊! 5 (ガガガ文庫)

出会ってひと突きで絶頂除霊! 5 (ガガガ文庫)

「アンチ・マジックミラー号。鏡の呪術を扱う私にぴったりな、素晴らしい秘匿呪具だわ」

動き出した呪術師の楽しげな笑い声が、闇の中を不気味に木霊していく――

退魔学園の学校見学会の日.晴久は校内で迷って泣いている少女と出会う.少女はラッキースケベの右手とアンラッキースケベの左手を持つ《無敵の童戸》のひとり,童戸槐だった.

《十二師天》のひとり,《無敵の童戸》を蝕む幸運と不幸の呪い.アンチ・マジックミラー号ってなんぞやと思ったらモンスターパニックが始まったり,ラッキースケベという「幸運」に新たな解釈を与えたり.エロと下ネタをウリにしながらも,既存のネタにとどまらず,伝奇小説としての意味合いをしっかり付け加えている.見た目ほど単純な話ではないし,一筋縄ではいかない,重みと密度のあるネタの数々が楽しい.次回への引きも強い.楽しみにしています.

秀章 『先日助けていただいたNPCです ~年上な奴隷エルフの恩返し~』 (ガガガ文庫)

「な、な、……なんて素晴らしい! キルした人間が二度と戻らないということは、要するにアク禁ですね!? ラット様的には好都合ではないですか! 鼻持ちならない人間は、キルしてしまえば一生接触せずに済むのですから!」

「そう来たか!」

寝津恭兵はネトゲのソロプレイを信条とする孤高のトップランカー.ある日,お気に入りのNPCである奴隷エルフが,他のプレイヤーたちにいじめられているところに出くわす.PKでもって粛清を行った恭兵こと暗黒騎士ラットだったが,その後なんと奴隷エルフのイノそのものの女性が恩返しに現れる.

ネットゲームからやってきた年上エルフ,現実を堪能するの巻.元奴隷のはずなのに妙に図太く,現代にもあっさり適応したエルフのイノさんが,男子高校生を巻き込んで好き放題に暴れ回る.脇を固めるキャラクターもいちいち濃い.「うる星やつら」を思い出した.正統派にして,現代風にアップデートされた押しかけ女房ものだと思う.テンポも良く,お気楽に楽しめるコメディでした.

月夜涙 『史上最強オークさんの楽しい種付けハーレムづくり』 (ガガガ文庫)

史上最強オークさんの楽しい種付けハーレムづくり (ガガガ文庫)

史上最強オークさんの楽しい種付けハーレムづくり (ガガガ文庫)

「この平和な村で強くなってどうするんだよ。俺だって狩りぐらいはできるし、今のママでいいよ」

「まあ、そんなことじゃ、可愛い女の子を孕ませられないですよ。お父さんみたいに、雌に孕ませてほしいって思わせるような強い雄になりたいとは思わないですか? ああ、お父さんとの出会いを思い出します。あれは……」

母さんは笑顔でとんでもないことを言う。

オークの族長と元女勇者の間に生まれた子,オルクは,その母親似の容姿から,オークの村でいじめられていた.オークとして生まれたからにはハーレムを作りたい,雌を孕ませたい! 母からの修業によって最強のオークとなったオルクは,ハーレムづくりの旅に出るのだった.

第13回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作.100ページほどの厳しい修業で史上最強となったオークさんが,楽しい種付けハーレムづくりに勤しむ.よくある釣りタイトルだろうなあと思って読んでみたら,本当にタイトルそのままの話でちょっとびっくりした.エロを中心としたネタがとにかく安直でおっさん臭く,徹頭徹尾品がない.いちおう転生ものではあるのだけど,転生ものである必要がほぼない転生ものもはじめて読んだ.受賞時点ですでにデビュー済みだったし,どうしてこれに新人賞を出したのか,理解に苦しむレベルでした.

竹内佑 『前略、殺し屋カフェで働くことになりました。2』 (ガガガ文庫)

前略、殺し屋カフェで働くことになりました。 2 (ガガガ文庫)

前略、殺し屋カフェで働くことになりました。 2 (ガガガ文庫)

そこには、フヤラのつたない文字で『ふだんどおりの会話をするように』と書かれていた。

全員が頷く。フヤラがページをめくる。

『とーちょーき、せっちされている。八つある』

盗聴器。全身に緊張が走ったが、俺以外のみんなは平然とノートを見ている。そんなのとっくに予想済みだったということか。

殺し屋の集まる喫茶店,エピタフ.監禁された迅太がそのまま働くことになって一ヶ月,今では交渉人としての役割を勤めるようになっていた.ある日,エピタフを探偵が訪れ,とある企業のハッキングに関連した殺人事件の実行犯を探し出す依頼を持ち込んでくる.

企業ハッキングと連続殺人事件が,20年前に児童養護施設で起こった事件につながっていく.「好きなものは悪い人たちがたくさん出てくる韓国映画」と著者プロフィールにわざわざ書いているように,殺し屋たちの組織間抗争に針を振り切った話作りになっている.方向性がはっきりした分,一巻に比べてぐっと面白くなっていると思う.盗聴器が仕掛けられた事務所内のやりとりだったり,何をやらかすかわからない,ひねくれたクソガキハッカーだったり,しっかりした緊張感がある.それに並行して描かれる,登場人物たちの過去や,中学生の紙魚子の料理作りも楽しい.それぞれが意味を持ってラストにつながっていくのは感心した.ライトノベル的な良い意味での軽さと,ノワールの面白さが両立している.良いシリーズになったなと思います.



kanadai.hatenablog.jp

八目迷 『夏へのトンネル、さよならの出口』 (ガガガ文庫)

夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)

夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)

僕がトンネルに入ってからちょうど二時間が経過していた。

「三秒で二時間」

これは、つまり。

「トンネル内での一秒は、外でおよそ四〇分……」

なんでも欲しいものが手に入る代わりに,入った者は歳をとってしまうという都市伝説,「ウラシマトンネル」.無気力な高校生,塔野カオルは,夜の散歩中にウラシマトンネルらしきトンネルを発見する.カオルは転校生のクラスメート,花城あんずと手を組んで,ウラシマトンネルの探索を行うことにする.

取り戻したいものは,五年前に死んだ妹.第13回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞&審査員特別賞W受賞.夏休み,田舎町,転校生の少女,そして時空を超える「ウラシマトンネル」と,これ以上ない舞台と雰囲気で描かれる青春SF.

普通に頑張ることでしかなれない特別なものがあり,この時間でないと手に入らないものがある,ということをウラシマトンネルに託して語る.SFよりも青春小説としての側面が強いかな.妹の死をきっかけに,修復の方法がなくなってしまった家族の描き方に特に力を入れている印象がある.過去の清算の難しさや,親と子供のすれ違いをリアルに,ある意味かなり残酷に描いていると思うんだよな.それなりにページ数もあってまとまっていると思うのだけど,語りきれていない部分がまだありそうだと感じた.もっと長い尺で読みたくなる.そんな小説でした.