羽場楽人 『スカルアトラス 楽園を継ぐ者〈1〉』 (電撃文庫)

スカルアトラス 楽園を継ぐ者〈1〉 (電撃文庫)

スカルアトラス 楽園を継ぐ者〈1〉 (電撃文庫)

白い少女は両手を膝の上に置き、淡々と語りはじめる。

「わたしはスカルアトラス。モンスターを全滅させるため、人類に創られた地上奪還兵器です」

エーテルの暴走によって,人類の文明が完全に途絶えて数億年.わずかに生き延びた人類は,塔の上の街で新たな文明を築いていた.街の地下,6600万年前の地層から発掘された巨大な骸骨,スカルアトラスの謎を探っていた考古学者のクレイは,地上奪還兵器として創られた化石兵器の覚醒に立ち会う.

少年が強大な力を持つ少女と出会い,神話と現実の入り交じる世界が変革されようとしていた.怪獣ものや巨大ロボットものを意識したと思われるファンタジー.溶けない氷に包まれた巨大な骸骨,モンスターが闊歩し人類が弱者に追いやられた世界,人類の天敵・ドラゴン.各々のファンタジー要素は悪くないのだけど,並べられるとファンタジーRPGのチュートリアルのような雰囲気が強い.手堅くまとまっているのは間違いないけど,個人的にはもうひと押し.強くは惹かれなかったかなあ.

井中だちま 『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』 (富士見ファンタジア文庫)

父親の再婚相手ということではない、ガチで普通の母親、高校一年になった息子がいる主婦でありながら、十代少女と余裕で張り合えるほどの超絶的に若く見える真々子である。

ゲームを愛する高校生,真人.念願叶ってゲームの世界に転送された真人だったが,真人を溺愛する母,真々子がなぜかそれに着いてくることになる.

二振りの聖剣を抜き最強になった母親同伴のゲーム世界の旅.現在アニメ放送中の,第29回ファンタジア大賞〈大賞〉受賞作.美人で(見た目が)若くて優しい母親がいて,押しかけてきて求婚してくる女賢者がいてと,話運びが恐ろしく都合がいい.それ以上に,どんなひどい言葉でも無条件で受け入れてくれる都合のいいひと=母親,みたいな前提が話の根っこにあり,えー……という気持ちになってしまった.もちろん,作者もそこを意識した上で,カウンターを用意しているのはわかる.でもなあ.自分が続きを読むことはないでしょう.



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紫炎 『まのわ 竜の里目指す 私強くなる』 (このライトノベルがすごい!文庫)

まのわ 竜の里目指す 私強くなる (このライトノベルがすごい! 文庫)

まのわ 竜の里目指す 私強くなる (このライトノベルがすごい! 文庫)

「こんな茶番のような、くだらない世界からさっさと帰りたいよ。君だってそうじゃないのかい?」

その老人の言葉は辛辣で、風音は思わず唸った。

「私は……そうでもないかな」

依頼を受け竜の里を目指すことになった一行.行方知れずだった風音の弟,直樹との再会も果たし,順調な旅路の途中.道中の街で参加することになった大闘技会の裏で,ある思惑が動いていた.

タイトルを一新しての続編.作中人物の道徳観や倫理観と,読んでいる自分とのズレがいよいよ受け入れがたいものになっている.元の世界に戻って家族に会いたいと訴える同郷の人間に対して,自分は元の世界に執着ないしと受け流す主人公.冷静というよりやる気がないようにしか見えない.サービスシーンも即物的というか,言ってしまえば非常に古臭い.やっと話を動かそうとしているのはいいんだけどねえ.

大澤めぐみ 『彼女は死んでも治らない』 (光文社文庫)

彼女は死んでも治らない (光文社文庫)

彼女は死んでも治らない (光文社文庫)

へ~こりゃすっごいリアルな死体だな~クオリティ高いな~まるで本当に死んでいるみたいだぁ~って思ってよくよく見てみたらマジにリアルに死んでたからめちゃくちゃびっくりした。そりゃリアルなはずだわ、リアルに死体なんだもん。

高校生の神野羊子は,入学早々,幼馴染で親友の蓮見沙紀が死体になっているのを発見する.頭のない逆さ吊りの,大好きな沙紀を救うため,羊子は幼馴染で助手役の昇とともに推理を開始する.

密室に物理トリック.ありとあらゆる手段で何度も殺される大好きな女の子を何度でも生き返らせるため,自称顔面偏差値48の少女は推理する.学園ミステリ? のようなもの.あらすじが言うには「超絶コージーミステリー」.物知らずなのでコージーミステリという言葉を初めて知ったのだけど,しかしこれはコージーミステリの典型だと思っていいものかしら.

やたらと濃いキャラクターたちに,思いも寄らない方向へと進む事件とその最終解決.そこまでの展開からまた想像できない綺麗なラスト.みっちり詰まった作者独特の文体から語られる,元気いっぱいで不穏な空気と,徐々に強くなっていく違和感はさすがのもの.作者の既刊に比べても,いちばんエンターテインメント寄りの作品になっているかもしれない.楽しゅうございました.

三月みどり 『ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの?2 す、すみましぇんですの』 (MF文庫J)

ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの?2 す、すみましぇんですの (MF文庫J)

ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの?2 す、すみましぇんですの (MF文庫J)

「星羅、これからも俺の告白に協力してくれないか?」

ラブコメの神様である月宮アテナに邪魔され続け,優吾は相変わらず天真へ告白できずにいた.五月もそろそろ終わりのある日,学校に三人目のラブコメの神様がいることが明らかになる.いかにもエリートっぽいラブコメの神様,星羅ルナに,優吾は告白の手助けをしてもらうことになる.

ラブコメの神様に惚れられた高校生のドタバタブコメ第二巻,ポンコツすぎるラブコメの神様登場の巻.三角四角関係のもつれからのカタルシスより,最初からストレスのない話作りに舵を振り切っている.毒にも薬にもならない,いかにもな現代的ラブコメと思っているけど,お気楽に読めて個人的には悪くない.まあ,改めてコメントすることも特に思いつかないんだけどね.



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