水沢夢 『俺、ツインテールになります。18』 (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 (18) (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 (18) (ガガガ文庫)

恨み言なら受け慣れた。お前はそう言っていたよな、ドラグギルディ。

俺たちもそうなるだろうぜ。今だけは……幸せな時間を、奪う側になるんだから――。

アルティメギル基地への転送手段を手に入れたツインテイルズ.侵攻される側から,侵攻する側へと,いよいよ最後の決戦に挑む.そんななか,愛香はある行動に出る.

とうとう最終決戦へと突入する18巻.奪われる側から奪う側へと転じる,最終決戦のお約束が続々と描かれる.やっとここまで来たか……という感慨と疲労感.次でようやく完結なのかな.

伊瀬ネキセ 『HELLO WORLD if ―勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする―』 (ダッシュエックス文庫)

HELLO WORLD if ー勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をするー (ダッシュエックス文庫)

HELLO WORLD if ー勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をするー (ダッシュエックス文庫)

「怖がらなくても大丈夫。根源が情報であれ血肉であれ、その都度思考して変化を生み出していくものを、わたしは単なる記録とは思わない。数字は自然のもので、アルタラが記憶しているものが数値なら、やはりあなたも自然の存在なの。ただほんの少し、在り方が違うだけ」

中学校の卒業間際.誰にも知られないまま失恋した勘解由小路三鈴は,変わりたいと強く願うようになっていた.そんなある日,ひとりの女性が三鈴の前に現れる.彼女は勘解由小路ミスズ.20年後の未来からやってきた三鈴本人だと言う.

野崎まど原作『HELLO WORLD』の,あり得たもうひとつの物語を描くスピンオフ小説.堅書直実と一行瑠璃.大切な友人であり,憧れのひとであるふたりの恋を,未来からやってきた自分とともに密かに応援するうちに,三鈴の心境は変化していく.本編のSF好きな高校生男子が,この世界がイーガンであると理解したのに対して,こちらの中学生女子はこの出来事が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいなものだと理解する.物語の色というか,明確な対比が出ている導入がうまい.

グレッグ・イーガンをモチーフにしたであろう原作を下敷きにして,この上なくまっすぐな「if」の物語を描いていると思う.それは世界の在り方だったり,本編のふたりの別の一面であったり,本編ではあまり語られなかった三鈴という少女に起こり得た「“誠実な失恋”」である.「世界で最初の失恋」というサブタイトルの意味がわかった時には素直に感動した.ある部分では原作よりも好きかもしれない.堀口悠紀子の繊細なイラストもとても良い.こちらも何らかの形で映像化されるといいな.



kanadai.hatenablog.jp

水沢夢 『SSSS.GRIDMAN NOVELIZATIONS Vol.1 ~もう一人の神~』 (小学館)

SSSS.GRIDMAN NOVELIZATIONS Vol.1: ~もう一人の神~ (ガガガブックス)

SSSS.GRIDMAN NOVELIZATIONS Vol.1: ~もう一人の神~ (ガガガブックス)

「変わってないよ」

裕太の呟きからかなり間を置いて、怪獣少女はそう言った。

「この世界は何も変わっていない。ただ、可能性がいっこ増えただけなんだ」

学園祭に現れた怪獣メカグールギラスを退けたグリッドマン同盟.その翌日,学園祭の片付けのために登校した一行が教室に行くと,そこにいたのは黒髪になった新条アカネだった.

記憶を失い,もう一度繰り返されるグリッドマンとの出会いと戦い,そして黒い新条アカネ.アニメ8話と9話の間にあったかもしれない,もうひとつの可能性を描いたオリジナルストーリー.こまごまと振り返りが入るけど,基本的にはアニメを全部観たひと向けのノベライズなのかな.新怪獣(覆水不返怪獣ガイヤロス)登場もありつつ,手堅くまとめていると思う.ギミックが無難すぎる気もするけど,それがわかるのは次以降かな.

伊藤ヒロ 『異世界誕生 2006』 (講談社ラノベ文庫)

異世界誕生 2006 (講談社ラノベ文庫)

異世界誕生 2006 (講談社ラノベ文庫)

「……おかしいわよね。仏壇なんて」

それは、もしかすると彼に言ったのではなく、ただの独り言であったのかもしれない。ほんの小さな、消え入りそうな声だった。

「だって……タカシは、異世界で……」

タカシは、異世界で生きているのだから。

2006年の春.主婦,嶋田フミエは,トラック事故で死んだ息子タカシがPCに残した設定とプロットを元に,夜な夜なたどたどしい手つきで小説を書いていた.そのことが恥ずかしくてたまらないタカシの妹,チカだったが,あるきっかけでその小説をインターネットで公開することにする.

いなくなった息子は,今でも異世界で元気に暮らしています.空虚な時代,ある母親の書いた拙い小説が,混沌を求めるネットと交わり,“異世界”が産声を上げた.愛と後悔と嘘から生まれた「異世界転生」の物語.真実が明らかになったあとに残るのは,現実とわずかな救い.令和の電車男かもしれないと思ったのだけど,そう呼ぶにはあまりに辛気臭く,露悪的である.

たくさんの人間に読まれることで,逃げ場だったはずの異世界は現実を取り込み,形を大きく変えてゆく.意欲的なテーマだし良い話だとは思うんだけど,物語の大前提に抱いてしまった大きな疑問符(小さいものもいくつか)が最後まで晴れなかったのは気になった.しかし読んでいていちばんびっくりしたのはあとがきかもしれない.テーマが気になったのであれば読んでみていいのではないでしょうか.

「うまく説明できないけど、なんていうのかしら――人に読んでもらうと“世界が成立”して、タカシがその世界で生き続けるって実感を感じて……。私の中だけじゃなく、ちゃんと外側にも世界があるって……だから、こうしなきゃいけない気がして……」

気がつけば、または母は泣いていた。

子供のように。ぽろぽろと大粒の涙を零しながら。

鳩見すた 『アリクイのいんぼう 運命の人と秋季限定フルーツパフェと割印』 (メディアワークス文庫)

脇役が主役をねたむのは、ごく自然なことだと思う。きっとテディとバーンも、ハイスクールでゴーディを見かけて、同じようにまぶしがったに違いない。

『ヒルにタマを吸われて気絶したくせに!』

なんて言いながら、ふたりの少年は陽のあたる場所に憧れたのだろう。

有久井印房はミナミコアリクイの店主が切り盛りするハンコ屋兼喫茶店.様々な事情を抱えた人々が集まるこのお店で,アリクイさんは彼らをもてなしながらハンコをおすすめするのであった.

『スタンドバイミー』を始めとした音楽と映画になぞらえたぼんくら浪人生の青春話あり,唐突に始まるあまりにほら話めいた因縁のバリツ対決(「ビッグバリツ」,「ザ・ラストバリツ」)あり.っていうか一巻からやってるあれバリツだったの!? みたいな驚きがあったり.同じ舞台,同じモチーフを描きながらも,章ごとに読み口ががらりと変わるのが楽しい,というかとてもうまいと思う.日本のレーモン・クノーと言っても過言ではあるまい.たぶん.引き続き追いかけてゆきたいと思っております.