小川一水 『天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART3』 (ハヤカワ文庫JA)

「千年後も、きっと私たちはいますよ。何がどうなって……というのは言いにくいんですが、そうに決まってます。どこで、どんな服を着て、どんな家で子供を育てているのかなんて、わかりませんけど……とにかく何か着て、なんとかやっていますよ。そうでないわけがありますか?」

10年,10巻,17冊をかけたヒトの物語,最終巻.超新星爆発をもって,ミスチフを掃討しようとする総女王オンネキッツ.生き延びるために手を結ぶ多様な種族.ヒトでないものとして,ヒトと文明を見つめる決意をする新たなダダー.大団円であり,まだまだ書けることがたくさんありそうでもある完結編だったと思います.お疲れさまでした.

御守いちる 『霧ノ宮先輩は謎が解けない』 (講談社ラノベ文庫)

そして私は自分の意思で、天瀬の首を切り取った。

きっとその時の私は、これまでの人生で誰も見たことのないような、幸福な表情をしていただろう。

日下部秀一の一年先輩である霧ノ宮才華は,探偵と推理が何より大好きで才色兼備のお嬢様.しかし彼女には探偵としては致命的な欠点と,ある秘密があった.

推理が下手くそで暴走するお嬢様探偵と,それを影で支える助手の少年,本当の殺人事件に遭遇する.ラノベ文庫より講談社ノベルスが似合いそうなミステリ.キョンとハルヒのようなふたり,といいたいところだけど,探偵でヒロインたる霧ノ宮先輩の個性がかなり弱い.ミステリとしては落ち着いているとも言えるし,地味だとも言える.個人的にはもうちょっとハッタリがあるとよかったかな,と思いました.

秀章 『先日助けていただいたNPCです2 ~年上な奴隷エルフの恩返し~』 (ガガガ文庫)

不憫萌えなんてものは、自分に都合のいい妄想。妄想の中でのみ成り立つフィクション。

リアルの奴隷エルフというやつは、愛でる余地などこちらに与えず、かくも人の気を滅入らせる

俺はようやく、そのことを思い知るのだった。

結婚の概念を知ってしまった押しかけエルフのイノさん.元奴隷とは思えぬ強引さでグイグイ結婚を迫ってくるイノさんを,「嫌いではないが好きかというとかなり微妙」な恭兵はかわし続けていた.そんなある日,何者かによってイノさんが「初期設定化」されてしまう.

薄幸の奴隷エルフなんて,理想と現実はだいぶ違うから夢から覚めなさい.エルフの押しかけ女房がグイグイとウザいラブコメの第二巻.特筆すべきリーダビリティの高さと,軽快だけど地に足の着いた安心感.それぞれのキャラクターも嫌味なくかわいらしい.これぞラブコメといった感じの,楽しいラブコメだと思います.

水沢夢 『SSSS.GRIDMAN NOVELIZATIONS Vol.2 ~世界終焉の怪獣~』 (小学館)

「ホント、上手くいかないなあ。アンチといいさ……何なの」

「じゃあどうして、私に心を創ったの?」

「創ってないって。君が勝手に持ってると思ってるだけ」

植物怪獣ガイヤロスを倒したグリッドマン.これで元の時間に戻れると思った裕太だったが,気がつくと「あの日」に戻っていた.またもや時間ループかと訝しむ裕太.しかし,今回は六花や内海,新世紀中学生の面々も記憶を共有しているらしい.

心を持ってしまった怪獣は何を思う.そこにあるのはもうひとつのツツジ台,そしてもうひとりの神.TVアニメ8話と9話の間にあった(かもしれない)出来事を描いたスピンオフ小説の第二巻.ここでしか見られないフルパワーグリッドマンの新形態あり,グリッドナイトの登場あり,裕太とアンチのサービスシーンもあるよ.スピンオフだからできること全部入り.テキストも含めて原作の空気を出すことに成功している.きれいにまとまった良いスピンオフだと思いました.



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水沢夢 『俺、ツインテールになります。19』 (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。19 (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。19 (ガガガ文庫)

  • 作者:水沢夢
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2020/02/18
  • メディア: Kindle版

「首領はツインテールを愛するあまり、ゼロのツインテールを完成させてしまったんだ」

俺が言葉に熱を込めるにしたがって、愛香たちの周囲に疑問符が浮かんでいくようだった。

「……いや、ツインテール捨て去ったって、それってツインテールじゃないでしょ」

アルティメギルの本拠地に乗り込むも,首領との戦いに敗れたツインテイルズ.首領は逆に総二たちの総攻撃を宣言する.アルティメギルとツインテイルズの戦いはついにクライマックスを迎える.

デビュー作となる一巻から約8年,20冊を費やしたシリーズの完結編.∞のツインテールvs.ゼロのツインテール.世界に正体をばらされてしまったヒーロー.それぞれに決着がつけれらる因縁.ヒーローと人々の関係.特撮ヒーローもの最終回のお約束をぎゅっと詰め込んだ最終巻になっている.正直なところ中だるみも長いシリーズではあったけど,終わりよければの精神.良い最終回だったと思います.



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