カミツキレイニー 『魔女と猟犬2』 (ガガガ文庫)

かつての姉の美しさは、一輪の花に例えられた。

北の雪原にありながら、情熱的に咲く赤い花だ。

「俺は魔女が欲しい。一人残らず、俺の前につれてこい」。火と鉄の国キャンパスフェローに仕える〈猟犬〉ロロは、竜と魔法の国アメリアで命を奪われた領主の言葉と、未来の領主を守るため、“雪の魔女”を求めて“鏡の魔女”テレサリサを伴い〈北の国〉(ノース・ランド)へと向かう。

アメリアと戦うための力と“雪の魔女”を求め、ヴァーシア人の支配する北へと向かう。魔女と若き暗殺者のファンタジー、第二巻。文化も死生観も異なる異民族の王と、迫りくる侵略者の間に立って、死んだ主だったらどう考えるか。アサシンとしても人としてもまだ未熟なロロの成長を丁寧に描いてゆく。ジュブナイル的でもあり、ダークファンタジーとしてもとても良い。“雪の魔女”とその弟の昔話を描いた序章が短編として単体で完成しており、つい何度も読み返してしまった。最後まで読んでから読み返すと、その間にあったであろう時間にいろいろな思いが湧いてくる。

こんな顔↓なのに聞き分けが良くて素直な“鏡の魔女”テレサリサが妙にかわいくて頼もしいのがおかしい。北欧神話を土台にしたこの巻から、作者の本領を発揮し始めた感がある。作中の言葉を信じるなら、魔女はあと五人。続きが楽しみなシリーズになりました。



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松山剛 『僕の愛したジークフリーデ 第1部 光なき騎士の物語』 (電撃文庫)

「――単純に、悪い王様で、あったなら」

それはとても、哀しげな声で、

「いっそ、どんなに良かったであろう」このときの彼女の顔は、ああ、なんて言ったらいいだろう――ひどく苦しそうで、切なそうで、そう、なんだか、叶わぬ初恋に身を焦がす少女のように――

かつて「大魔術時代」とも呼ばれる栄華を誇った魔術師は、反魔素材(グリゼルダ)の発見により、その権威を大きく落としていた。数少ない若き魔術師オットーは、世界を巡る魔術収集の旅の途中で、眼帯を巻いた盲目の剣士、ジークフリーデ・クリューガーに出会う。

慈悲深き聖女(バルムヘルツィヒ)に統治されるリーベルヴァイン王国。女王は親衛隊長と姉妹のような仲睦まじい関係を築き、国民は平和と繁栄を謳歌していた。三年後、血と貧困に堕ちたこの国で、二人は殺し合うことになる。光なき女騎士と若き魔術師の出会いから始まるファンタジー第1部は、ひたすらプロローグに徹している。女同士の強い感情のぶつかり合いと、国と世界に関する変化と謎が、軽いノリの語り手に語られてゆく。ノリは軽いけど、内容は間違いなくダークファンタジーのそれ。クライマックスにはびっくりさせられた。それやっちゃうの!? という。どう続けるのか、彼女たちの間に何があったのか。これは早いところ続きをお願いしたいところです。

菊石まれほ 『ユア・フォルマII 電索官エチカと女王の三つ子』 (電撃文庫)

「こちらでの生活はいかがです? リヨンよりも過ごしやすいでしょう?」

「確かにすごく過ごしやすいよ。もう四月だけれど変わらず寒いし、野菜は安いのに栄養ゼリーが高い。配達ドローンの故障が頻繁に起きるから、ECサイトで買い物する気が失せる」

間。

「楽しく過ごされているようで、私も嬉しいです」

ICPO電子犯罪捜査局に復帰したエチカは、ペテルブルク支局に異動し機械仕掛けの友人(アミクス・ロボット)の補助官ハロルドと再会する。そんな折、英国王室に献上されたアミクスであるロイヤル・ファミリーモデルの関係者が連続して襲撃される事件がロンドンで発生する。被害者が口を揃えて言うに、犯人はRFモデルだと言う。

やはりハロルドはアンガスの言っていた、『小部屋の中の英国人』には見えない。その根幹を為すものがただのプログラムなのは理解している――しかし、どうしたってもっと複雑に感じる。

これは、自分自身の擬人観から生じる幻想なのだろうか?

舞台はロンドン。電索官エチカと、補助官でアミクスのハロルドのバディを通じて、人間とAIの築いてきた社会と、人間とAIそれぞれの違い、関係を描いてゆく。テキストは非常に読みやすく、細やかなところまで情報が行き届いているのにすっと頭に入ってくる。

彼は日頃、人間と重なって見える。家族であるダリヤを愛する気持ちも、ソゾンを殺されたことへの復讐心も、ほとんで『人間』そのもので。

けれどやはり、違うのだ。

RFモデルに、中国語の部屋は当てはまらない。

だとしても――ハロルドは、どこか別の小部屋の住人だった。

パンデミック後に発展した人工知能研究、国際AI倫理委員会(IAEC)、友人派と機械派、人間らしさを出すだけなら「簡単」にできる。アイデア自体は率直に言ってかなり古臭いものではあるし、そのアイデアを引っ張るストーリーは一巻から見てもかなり危なっかしく、結構な綱渡りをやっている。テキストはスマートだけど、やっていることはかなり泥臭いというか。カビの生えたAI観に、現代の倫理観で真正面から取り組んでいる、古くて新しい小説になっていると思う。テイストはかなり違うけど『BEATLESS』を思い出しました。

三月みどり 『きゅうそ、ねこに恋をする』 (MF文庫J)

この言葉がきっかけで始まったことがある。

それは二つの恋物語だ。

一つは王生匠真と姫野愛奈の恋物語。



そして、もう一つは――猫と鼠の恋物語。

学校一の美少女、桜宮雫は、社長令嬢の姫野愛奈に仕えるメイド。気弱でビビリな根津紡は、バスケ部のエースで人気者の王生匠真の親友。猫っぽい雫と鼠っぽい紡は、両片想いなのに素直になれない匠真と愛奈の恋を協力して応援することになる。

お互いの親友同士の恋を応援する、猫と鼠の恋物語。素直で純粋でねじれのない『とらドラ!』と言うのかな。100パーセント善意の上に成り立っているラブコメ。驚くような展開も変わったことも起こらない。まっすぐに恋を応援するキャラクターたちを、我々読者がまっすぐに愛でて応援する、みたいな構図になると思います。

二語十 『探偵はもう、死んでいる。5』 (MF文庫J)

だから今、私がまだここにいるのはあくまでも延長線。いや、蛇足だ。これは本来描かれる必要のなかったエピローグ。……だけど。それでもこの戦場に立つ限りは、この銃を再び握ってしまったからには、私は。

「私は決して仕事は投げ出さない。この身を賭して、名探偵の責務を全うする」

ふたりが出会ってから六年。世界の敵たる、原初の種と《名探偵》の最後の戦いが始まる。それは本来なら起こるはずのない奇跡だった。

これは助手が名探偵を取り戻し、ハッピーエンドに至る物語。死んだはずの探偵が戻り、《世界の危機》は解決される。それからの長いエピローグ。第一部完! といった雰囲気のシリーズ五巻。アクションありラブコメあり世界の危機ありと、やりたいことをやりたいようにやった、全部入りエンターテイメントになったのではないかと思う。作品世界に関わる重要な情報を、なんでもないことのようにさらっと流すのがなんか良い。ストーリー的にはひと段落ではあるけど、7月からのアニメでどこまでやるのか気になりますね。



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