松山剛 『僕の愛したジークフリーデ 第1部 光なき騎士の物語』 (電撃文庫)

「――単純に、悪い王様で、あったなら」

それはとても、哀しげな声で、

「いっそ、どんなに良かったであろう」このときの彼女の顔は、ああ、なんて言ったらいいだろう――ひどく苦しそうで、切なそうで、そう、なんだか、叶わぬ初恋に身を焦がす少女のように――

かつて「大魔術時代」とも呼ばれる栄華を誇った魔術師は、反魔素材(グリゼルダ)の発見により、その権威を大きく落としていた。数少ない若き魔術師オットーは、世界を巡る魔術収集の旅の途中で、眼帯を巻いた盲目の剣士、ジークフリーデ・クリューガーに出会う。

慈悲深き聖女(バルムヘルツィヒ)に統治されるリーベルヴァイン王国。女王は親衛隊長と姉妹のような仲睦まじい関係を築き、国民は平和と繁栄を謳歌していた。三年後、血と貧困に堕ちたこの国で、二人は殺し合うことになる。光なき女騎士と若き魔術師の出会いから始まるファンタジー第1部は、ひたすらプロローグに徹している。女同士の強い感情のぶつかり合いと、国と世界に関する変化と謎が、軽いノリの語り手に語られてゆく。ノリは軽いけど、内容は間違いなくダークファンタジーのそれ。クライマックスにはびっくりさせられた。それやっちゃうの!? という。どう続けるのか、彼女たちの間に何があったのか。これは早いところ続きをお願いしたいところです。