川岸殴魚 『呪剣の姫のオーバーキル ~とっくにライフは零なのに~ 3』 (ガガガ文庫)

ゆっくりとその戦士(アタッカー)の姿が現れる。

獣の骨で作られた不気味な仮面。仮面の後ろに流れる銀色の髪、つややかな褐色の肌。

鍛え抜かれた肢体は野生動物のよう。

そして肩に担いでいるのは……。

悪名高き〈屍喰らい〉か。

辺境伯から“黒衣の男”の目撃情報を知らされたシェイたちは、駆除騎士団と協力して外域の探索を行うことになる。主要四種の生活域の外にある、魔獣たちの世界である外域。駆除騎士団はそこで“変異種”と呼ばれる魔獣の正体を追っていた。

〈屍喰らい〉を操る最後のユグール族と、ユグール族を殺し尽くした〈縁砕き〉使いが正面からぶつかる。最後の呪剣士と戦場鍛冶師の物語、第三巻。教会に仕え、シェイを戎族(ジャンク)と呼んで蔑む駆除騎士団の登場で、作品の世界への理解は深まった。ただ、説明が詰め込みすぎで駆け足気味だったかなあ。珍しい正統派タイポグラフィは良かったけど、作者得意のコメディ調テキストでも厳しかった。

髙村資本 『恋は双子で割り切れない2』 (電撃文庫)

違くなんてない。あんた達が勝手に違うって思い込んでいるだけ。そうやって簡単な言葉に騙されて、違うという認識を持ったことに満足して、私を遠ざけていく。壁を作っていく。

そう思っていたけど、みんなと会話を楽しめないのは私だけなんだって思ったら、私が異分子なんだって実感した。だから私は、みんなよりももっと高い壁を作った。

そうやって作られた壁は、ぼんやりとした寂しさ程度の理由じゃ破ることは出来なかった。

いろいろあった末、純と瑠実と那織の関係は一度リセットされた。「シンプルな三角関係」となった三人は、恋に対して三者三様の姿勢を見せる。そんな中、定期試験と双子の誕生日が迫りつつあった。

双子姉妹との三角関係ラブストーリー第二巻。今まで見えなかったものが見えるようになった結果、三人の関係はシンプルになり、それと反対に三人の頭の中は複雑になったり。そのきっかけがいわゆる「オタクに優しいギャル」なのが面白い。三者三様、別ベクトルでしゃらくさい語りはひとを選ぶところもある気がするけど、そういう面倒臭さも作品そのものの個性となっている。一巻と同様の、必要以上にしっかりした巻末の引用一覧もまたよし。引き続き楽しみにしております。



kanadai.hatenablog.jp

空木春宵 『感応グラン=ギニョル』 (創元日本SF叢書)

――今一度問う。地獄、お前はお前を犯さんと欲する者どもを如何してやりたい。

「皆――地獄に――」肩で息をしながら、切れ切れにわたしは答える。「皆、残らず地獄に堕としてやりとうございます」

襤褸布の翳で、御坊の目見が喜悦に歪む。

昭和の初め。浅草六区の見世物小屋、浅草グラン=ギニョル。ここには身体の一部が欠損した少女たちが集められ、日々芝居を興行していた。新しく心を欠いた少女が加入することで、世界は大きく変わってしまう。表題作「感応グラン=ギニョル」

ペドフィルを捕らえる目的で開発された少女AIをめぐるふたりの女、ふたつの時代の物語、「地獄を縫い取る」。不勉強なもので地獄太夫の名前をここで初めて知りました。

恋をした男は蛙になり、恋をした女は蛇になり男を喰らう。恋が奇病となった恋愛禁止の世界の出来事を切り取る「メタモルフォシスの龍」。歪でグロテスクなラストがとても良い。

戦火のさなか、病気の少女たちが集められた女学園では、奇妙な物語が流行っていた。吉屋信子にインスパイアされたと思われる「徒花物語」は、ある意味この本でいちばんSFらしい小説だった気がする。

「感応グラン=ギニョル」のその後の話を描いた「Rampo Sicks」は、ワイドスクリーン乱歩バロックディストピアと化した浅草のある女達を描く。

第2回創元SF短編賞を受賞した作者初の短編集。怪奇と幻想、猟奇と耽美、あと欠損少女へのじっとりしたフェチズム。暗い情念に満ち満ちた作品集となっていた。あらすじのキーワードになにか引っかかるところがあるなら手に取ってみるといい。今回は短編集だったけど、次は同じテーマの長編をじっくりと読んでみたいなと思いました。

小林一星 『シュレディンガーの猫探し3』 (ガガガ文庫)

河童の正体、なんてものは無い。河童は河童だ。人々が生み出した幻想は時に、真実から切り離されて独り歩きし、もはや別物となる。

人々の願いが籠められた、理想である。

化けの皮を剥ぎ、その理想を否定するのならば、覚悟しなければならないだろう。奥に隠されているのは枯れ尾花どころじゃない、見たくなかった醜悪な真実かもしれないのだから。

亡き姉、飛鳥の残した魔導書「シュレディンガーの猫探し」を探して、「迷宮落としの魔女」焔螺と助手の令和は、芥川の故郷である猫又村を訪れる。そこは、妖怪の伝承と因習が数多伝わる、絵に描いたような閉鎖的な田舎の村だった。一行はそこで正義の陰陽師探偵を自称する少女に出会う。

舞台は「伝奇ミステリーの権化のような俗世離れした村」。数々の妖怪伝承、百鬼夜行、よそ者へ冷たい村長と村人たち、妖狐の血を引く土御門の巫女である「正義の陰陽師探偵」。そこには「謎」と「約束」に隠された「物語」があった。謎を迷宮入りへといざなう「迷宮落としの魔女」の物語、第三巻。まったく新しいテーマというわけではないけど、題材がいちいち好きなこともあってちょう面白かった。ドラマを見ていないのだけど、テーマ的には『TRICK』に近いのかな。チョイスされた題材と、作られた「物語」の裏にある真意の組み合わせがとても良いものだった。今回で「ほぼ打ち切り」とのことで、仕方ないけどもっと読みたかったな。お疲れ様でした。

紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった7 もう少しだけこのままで』 (スニーカー文庫)

そこにはまだ、ゴールテープは張られていない。

家に帰っても、今日が終わっても、きっとどこにも張られていない。

それでも私は、一緒にゴールしたいのだ。

どこにあるかもわからないそれを、他の誰でもないあなたと。

秋。文化祭も終わり、生徒会に入った結女は、新しい日常を迎えていた。会長の紅鈴理をはじめとした生徒会の先輩たちに、恋愛のアドバイスを請う結女。次のイベント、体育祭は近づきつつあった。

先輩たちの恋バナを聞いたり、いっしょにお風呂で洗いっこしたり、ノーブラで体育祭に参加したり。青春小説であるのと同じくらい、性春ラブコメの味が強い巻だった。お約束に忠実に描きつつも、ちゃんと今までの巻と同様の落ち着いたトーンで、ちゃんと青春小説になっているのはさすが。物語としての一貫性を感じるし、上手い。箸休めに近い巻だったかもしれないけど、良かったです。