夏目純白 『純白と黄金2』 (MF文庫J)

「ヤンキーの実在性を知ることは、己を高みに導くことに繋がる」

「……あ?」

「ヤンキーとは何か。なぜ天は人の上にヤンキーを造ったのか。知りたいと思わないか?」

「研究し続ければ、その天ってやつが教えてくれるのか?」

「答えは、人がヤンキーとして成長していく過程にあると思っている」

ヤンキーの聖地東北から上京した安室レンジ。東京最大のヤンキー都市、猫丘区でオタク生活を満喫していた。

天は人の下に人を造らず、人の上にヤンキーを造った。いろいろなものがぶっ飛んだヤンキー小説の第二巻。単語のチョイス(「ヤンキー猫!?」)といい、淡々としたストーリーテリングから語られるどこかおかしな流れのストーリーといい、全方位的に独特のセンスがある。こう、締めるべきところはもちろん締めてるんだけど、ときどきコントが挟まるというか、コントとそこ以外の区分が良い意味でふんわりしているというか。楽しいのは間違いないけど言語化が難しいんだよな。硬派なヤンキー小説を期待してるとかなーり変なものを読まされることになると思う。ぜひこのまま突っ走ってほしいと思います。

しめさば 『君は僕の後悔(リグレット)3』 (ダッシュエックス文庫)

やめてくれ。

身体が震えた。

彼の……いや、“彼ら”のまっすぐさは、そういうふうに生きられない人間にとっては、暴力的だ。正当性をかなぐり捨てて、自分は間違っているのかもしれないと思いながらも、まっすぐ進んでくる人間を、言葉で糾弾しても、意味がない。無敵の存在だ。

拒絶しても、向かってくるのなら……逃げることしか、できないじゃないか。

夏休みがやってきた。結弦は藍衣や薫たちと高校生らしい夏を満喫していた。そんな中、壮亮の提案で文化祭に向けてバンドを組むことになった。触れたこともないドラムに苦戦しながらも基礎からなんとかものにしていく結弦。その一方、壮亮には思うところがあるようだった。

音楽と言葉と心、その間に共通するもの。恋と対話の物語、第三巻。なんというか、人間関係の距離感の描き方が絶妙で、これぞ「対話」の物語だと感じた。会話での身の引き方・踏み込み方だったり、言葉の交わし方・躱し方がとても自然で、キャラクターたちの存在感が非常に強い。派手な事件が起こらずとも、強く印象に残る、重い物語になっていた。

東崎惟子 『竜殺しのブリュンヒルド』 (電撃文庫)

そう悪い気はしなかった。いや、はっきり言おう。むしろ多幸感に満ちていた。

愛する人の意思を無視して、蹂躙しながら、ひとつになる行為は、

想像を絶するほどに心地よくて、

恐ろしいまでに気持ちよかった。

伝説の島、エデン。島を護る白銀の竜によって、ひとりの幼子が拾われる。竜の血を浴びて生き延びた幼子を、竜は我が娘のように育て、娘も竜を父のように、いやそれ以上に愛した。それから十三年。竜殺しの英雄、シギベルトの襲撃により、竜は殺され、娘は帝国へと奪還される。

親子というのは、そんなにも超常的な心のつながりを有した関係なのか?

神話のような語りから始まる、第28回電撃小説大賞銀賞受賞作。まず竜と楽園の神話があり、人間の手で終わり、そこから新たな神話が始まる、みたいな。そこで語られるのは、「父」と子の間にある愛情と憎悪であったり、そこから生まれる復讐と背徳であったり。あまりに不器用でどろどろとしたものを抱きつつ、まっすぐすぎる愛を描いた、首尾一貫した綺麗な物語でもある。端正なテキストの読み心地も含めて、紅玉いづきと同じ何かを感じた。推薦するのがよくわかる。傑作だったのではないでしょうか。



dengekibunko.jp

深沢仁 『渇き、海鳴り、僕の楽園』 (ポプラ文庫ピュアフル)

扉に体重をかける。溢れんばかりの陽の光がチャペルに入ってきて片手をかざした。僕は急にいまが夏だと思い出す。波の音がした。小道に立って、果てにあるグレイの家を見上げる。青い空の下、美しい白色の建物。そこからここまでの間に、生きている人間はいない。

深呼吸をひとつしてから歩き出す。墓地を墓地にしているものはなんだろう、という疑問が、頭の中でまた浮かんだ。

アメリカのとある田舎町。高校生のウィルは、同級生のスカイ・ハーマーに代わって、ひと夏の間「楽園」と呼ばれる場所で働くことになる。どこにあるともしれない場所、何をするのかも知らないまま訪れた「楽園」。そこはひとりの墓守と墓地しかない美しい孤島だった。

ベッド脇に彼が立ったのがわかった。手を伸ばすと、濡れた鼻先に指が当たった。僕は手探りで頭を撫でる。

おやすみ、とつぶやいてから目を閉じた。

それは、僕にはやはりひとり言のようにしか響かなかったけど、そう悪い気もしなかった。

ある少年がひょんなきっかけで滞在することになった、「楽園」と呼ばれる島での日々。現実と幻想の境目があるのかすら曖昧な島を舞台にした、マジックリアリズムを感じさせる、行きて帰りし物語。成長、というよりは、少年が決断をするためのきっかけを得るための物語とでも言うのかな。幻想的で美しい光景とともに描かれる、とても静かで、どこか不思議な島での生活で変化していく内面の繊細な描写に惹きつけられ、心揺さぶられる。そして、ある場面から登場する犬に質感がありとてもかわいい。あとがきも含めて作者のバックグラウンドを感じさせられるものがあった。『この夏のこともどうせ忘れる』以来約3年ぶりの新刊、とても良いものでした。大人から子供まで、広く読んでほしい傑作だと思います。



kanadai.hatenablog.jp

てにをは 『また殺されてしまったのですね、探偵様 3』 (MF文庫J)

「そうね。普通ならそれで相手の勝ちだわ。真実を知るものはこの世にはいなくなる。ところがあなたは聞き出した情報を保持したまま生き返っちゃうってわけね。大したものだわ」

嵐によってクローズドサークルと化した画廊島。そこに現れた大富豪怪盗シャルディナは、島に向けて明朝6時にミサイル発射の指示を出したという。あと数時間、それまでに謎が解けなければ犯人も被害者も、殺人事件もトリックも、すべてが瓦礫の下だ。

前回の続きとなる「画廊島の殺人 後篇」とそのほか二篇を含む第三巻。いかにも一発ネタっぽい「殺されても生き返る探偵」を一発ネタにせず、「殺されて生き返る」存在そのものを話の軸に活かしつつ、新しい物語をつくろうという姿勢を感じた。新本格チックで大仰な話運びはミステリプロパーには評価されない小説だと思うけど、エンターテイメントとして巻を追うごとに楽しくなっている。特に今回はある謎解きと同時に開示される222ページのイラストが最高だった。このイラストのために読む価値があると断言できるし、たまにでもこういうのがあるからこそ、ライトノベルを読むのがやめられないというのはある。続きも楽しみにしています。