二語十 『探偵はもう、死んでいる。8』 (MF文庫J)

ああ、そうだったと思い出す。

だから私は。リリア・リンドグレーンは、目指したんだ。

画面の向こうの魔法少女の名を借りて、正義の味方になることを。

これは、シエスタが眠りについてから三ヶ月後の話。君塚君彦は、《調律者》の一人にして《魔法少女》、リローデッドから「使い魔」に指名され、ともに《百鬼夜行》を退治する非日常の日々を送っていた。《世界の敵》とたったひとり戦い続ける《魔法少女》には、ある目的があった。

過去の災厄の記憶を振り返り、書き換えられた全人類の記憶を検証する過程で語られる、ある《魔法少女》の過去と未来の物語。大切なものが両手に抱えきれないくらいできてしまったなら、それ以上手を伸ばすにはどうすればいいのか。手に届く範囲のものしか守れない者が正義の味方を名乗ることができるのか。「正義の味方」をフィクションで語るときにはよくあるテーマではあるけど、非常に理想的で、ならではの回答を導き出していたと思う。

カバーイラストと最後のモノクロイラストが対になっているのが美しい。いくつもの謎と伏線をはちゃめちゃにばらまいた無茶苦茶な一冊であり、ひとつのエピソードに決着をつけた、きれいな一冊でもあったと思います。

赤城大空 『俺を成り上がらせようとする最強女師匠たちが育成方針を巡って修羅場4』 (ガガガ文庫)

なにを……なにを勘違いしていたんだ僕は……!

“死んでも守る”じゃ届かない! 勝てなきゃこの子は救えない!!

決闘に勝利したことで、ますます注目を集めるようになったクロス。勇者の末裔、エリシアといい感じになりつつあることに危惧を覚えた師匠たち三人は、短期集中合宿の名目でクロスをクエストに連れ出す。そこでクロスは、精霊と人間の血を引く少女、シルフィと出会う。

〈無職〉の少年は、己の力を呪う少女を救う。なんだかんだと王道とお約束のファンタジーをなぞるようでいて、実は物語らしい物語を否定しているところもあるように見えるのは気のせいだろうか。〈無価値の宝剣〉の存在といい、特にバックグラウンドのない悪役といい。新ヒロインシルフィも可愛らしいし、素直に良いファンタジーだと思います。

鵜飼有志 『死亡遊戯で飯を食う。2』 (MF文庫J)

「ふざけるな」

指が残り一本になったところで、御城(ミシロ)は言った。

「ん。なに?」

「ふざけないでくださいまし!!」

〈キャンドルウッズ〉から三ヶ月。しばらくゲームから離れていた幽鬼(ユウキ)は、十回目のゲームに復帰する。目標とする九十九連勝へ向けて、勝ちを積み重ねる幽鬼(ユウキ)。やがて、プレイヤーに〈呪い〉が降りかかると言われる〈三十の壁〉に差し掛かろうとしていた。

どいつもこいつも、なぜ生身にこだわるのか。

答えは単純。

肉体を捨てたプレイヤーは長生きできないと、みんな知っているからだ。

金持ちの見せ物として執り行われる(とされる)、肉体改造された女の子たちの殺し合いの物語第二巻。変に取り繕うことをせず、機械的にただただ書いた、みたいな感覚があった。白のワンピースやら露天風呂やら、ベタベタな舞台装置で、それぞれにドラマを背負った少女たちが殺し合いあっさり死んでいく話なのに、欲が感じられないというか、闇とも呼べない、虚無のようなものを中心に感じるというか。似た小説として「魔法少女育成計画」を思い出したんだけど、それを強烈に脱臭した感じというか。良いと思います。

朝依しると 『VTuberのエンディング、買い取ります。』 (富士見ファンタジア文庫)

魂の想いは当事者になって初めて思い知った。

この結末は酸鼻のきわみだ。

VTuberが引退するというときには、とくにファンの間で通夜が始まる。その悲しみの声はファンが多いほど膨れ上がり、阿鼻叫喚の中で見送られることになるのだ。

しかも、その声は死んだ魂にも直接届いてしまう。

VTuber、夢叶乃亜。彼女を推すことに青春のすべてを捧げていたトップオタの高校生苅部業は、乃亜の大炎上と引退によって、一夜にしてその人生を一変させることになる。それから一年。ショックから髪が白くなり、高校を休学していた業のもとに、かつて乃亜の推し仲間だった少女が現れる。

第35回ファンタジア大賞大賞受賞作。「35年の歴史の中で、『ファンタジー』と『バトル』要素がない初めての〈大賞〉受賞作」は、推しの最期のプロデュースを通じて「魂」の救済と再生を描いた物語。VTuberの中身という意味の魂でもあり、文字通りの「魂」でもある。

現在のインターネットやVTuber、「推し」の概念を当事者性を持ってリアルに、そして非常に抑うつ的に切り取っていると思う。VTuberの引退、あるいは「死」の持つ重みへの、ある種の暗い情熱を強く感じる。なにせ、セクハラを繰り返すプロデューサーを炎上させようというのに「今はこの程度のセクハラ発言じゃ炎上しないから」と言って、過去の人種差別的発言を掘り起こし、さらに上海のオタクの協力を仰いでビリビリでのイベント直前に放出するという。作中ではYoutubeから質問箱まで、もろもろのインターネットサービスがほぼ実名で登場する。そういう意味でもリアリティと「現在」のスナップショットを感じさせる物語だった。

二月公 『声優ラジオのウラオモテ #08 夕陽とやすみは負けられない?』 (電撃文庫)

「あなた、本当にわたしのこと好きよね」

「そりゃねー……」

「…………………………………………………………」

否定しなさいよ……。気を抜きすぎでしょ……。

ぼんやりとお湯に浸かってるからって、本音を漏らさないでほしい……。

ティアラ☆スターズプロジェクトも後半。今度はユニットを変えて、夕陽とやすみは同じユニットに入ることになる。夕陽をリーダーに据えた新ユニットだったが、年上の新人、羽衣纏はなにか思う所があるようで、ギクシャクした始動になってしまう。

「アイドル声優活動をしたくない」という年上の後輩にかつての自分を重ね、リーダーとして成長を見せる夕陽。そんな夕陽を見て不安を覚えるやすみ。そして始まる二人の同棲生活。確かな成長と飛躍が描かれる第八巻。乗り越える壁だったりすれ違いだったりは当然のようにあるのだけど、ライバルであり友人であり嫌いなやつという二人の関係が、なんというか完全にできあがってる感がある。良い意味で安心して読める。というかやっぱりアイマスじゃないですか(あとがき)。アニメ化も決定したことだし、ますます楽しみになってきました。


あぁ。

悔しい。

悔しい悔しい悔しい――!

ここまで、ここまでやるか! あぁ最高だわ、そして最低だわ!

昂揚感はとっくになくなり、悔しさだけで胸がいっぱいになる。