早矢塚かつや 『悠久展望台のカイ』 (MF文庫J)

悠久展望台のカイ (MF文庫J)

悠久展望台のカイ (MF文庫J)

一センテンスが長く修飾詞が多いので読みにくい*1,カイと依泉子が両想いになるまでの過程がごっそり欠けているなど,技術面での突っ込みどころはけっこう多い.
その最たるは人称の揺らぎ.基本は主人公「カイ」の視点,一人称で語られるのだけど,たまに三人称になり,たまに別人物の視点で語られるようにも見える.
ただし,「主人公=世界」というこの作品の主題を考えながら読むと,この見方がまた変わってくる.
主人公はひとりの少年であると同時に世界そのもの.物語レベルでいうとすべての登場人物の考えていること・同時進行している出来事を見通しているというのがこの作品の主題.
いや見通すとか把握するといったレベルですらなくて,ここで大事なのはキャラクターひとりひとりも「世界」(=主人公)の一部分であること.つまり主人公が一人称で語っていることと他の誰かが一人称で語っていること,あるいは三人称で客観的に記述していることはすべて同義.一時的に人称が狂ったところで問題はまったくない.のかもしれない.
そう考えると,この人称の混乱も狙ってやっているんじゃないかとも思えてきて,実はすごいことやっているんじゃないか,と変に興奮してしまった.たまたま私がそんな風に深読みしているだけかも知らん,つーか可能性高そうだけど思ってしまったのだから仕方ないじゃないか.
上記の突っ込みどころに加えて話の盛り上げ方が個人的に気にくわない部分は有るのだけれど,今後が楽しみなひとであることは間違いない.とりあえず「早矢塚」を辞書登録しましたよ.
それにしても,1988年生まれかぁ.平成生まれが 解禁になる 一線で活躍し出す日ももうすぐそこか.

*1:私の日記もそんな感じかもしれないという自覚はある.でも自戒はしない