松野秋鳴 『えむえむっ!』 (MF文庫J)

えむえむっ! (MF文庫J)

えむえむっ! (MF文庫J)


「なんなんだよ。言えよ。気になるじゃねえか」
「う、うっさいわね! なんでもないって言ってるでしょ! もうこっち見ないでよ!」
なんだよ、その言い方は。若干気持ちよくなっちまったじゃねえか。
これは良い.主人公が真性M男というだけのよくあるバカ話かと思いきや,その設定(ドM)をここまで中心にスムースに組み込めて,そのうえこんないい話に出来るなんて.読みながら目から鱗がぽろぽろ落ちまくりでしたよ.一見して空気を読まないM描写の阿呆さをギャグとシリアス両方の場面で使い分けるなんてそうそう出来るもんじゃないと思う.p.287,p.303の二人のセリフも,主人公がMだから重みを持つ.おもくそ滲みた.周りを固める先輩や結野とのちょっとしたやりとりも優しい空気を出していて心地好い.テキストのテンポも好みでさくさく読めたのもすごく良かった.
ということで単なる一発ネタでは無かった.個人的には上半期ベスト級.消化していない伏線もあることだし,これまた続きが楽しみ.続編が出て面白くなるタイプの話ではなさそうだと思うんだけど,それでも今回のこれなら期待出来る.