小川一水 『風の邦、星の渚 レーズスフェント興亡記』 (角川春樹事務所)

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

「いいえ、町とは偶然の積み重ねよ。奇跡と言ってもいい。人の意思と人の意思が、なぜか一致して同じ向きを向く。すぐに消えてしまうはずのその一致が長く続いたとき、それは地に実って町になるんだわ。地形と気候と、歴史と偶然。それらの上に人が来て町ができる。私はそれをつぶさに見て、価値ある奇跡だと思った」

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記 - はてなキーワード

十四世紀,神聖ローマ帝国の北端の辺境に追いやられた貴族の三男が興した町の十数年の記録.荒れた土地に住まう人々をまとめ上げ,盗賊を討ち果たし,道を整え,商業を確立させる.それを見つめ,時に協力するある宇宙生命体.
人々が力を合わせれば出来ないことはない,という事象を性善説に基づいて描いており,舞台背景は異なるけど『第六大陸』や『復活の地』に通じる部分は多い.山積する問題を前に「人々」の純粋さや力強さ,想う心を雄大に描いており,分量はあるものの平易な文体を貫いていることもあって最後まで飽きない.その一方,歴史につきまとうであろう暗部は必要最小限にとどめており,少しの物足りなさを感じないこともなかった.まあ作者の最大の特徴にそんなこと今さら言うなって話ですけどね.ただひとつ,史実の解釈とはいえ,歴史小説と呼ぶにはレーズの存在が大きすぎる,というか都合良すぎるのが気になった.敵らしき敵はひとりとはいえ,たとえば『時砂の王』のオーヴィル vs. ET と比べると,その前にした力の差は歴然としている.下世話な痴話喧嘩に話を持って行くことも出来ただろうに,そうしなかったのはこれも作者のポリシーだろうね.
いろいろ書いたけど面白かったです.上に挙げた三作品が好きな方ならぜひどうぞ.なんか穿った書き方ばっかしてすみません.