日日日 『みにくいあひるの恋』 (MF文庫J)

みにくいあひるの恋 (MF文庫J)

みにくいあひるの恋 (MF文庫J)

『恋愛』は病である。
男女が恋に落ちると、そのとき脳内で発生するドーパミンなどの化学物質が異常な反応を示し、身体中の細胞を崩壊させる。
ウイルスか。細菌か。遺伝子の異常なのか。誰にも理解できないままその病は猛烈に蔓延し、予防や治療の方法も発見されないまま、世界中に死と苦痛をまきちらした。
人間は、恋をすると、死ぬようになったのである。


そして医学は敗北し、『恋愛』は病名となった。

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「恋の病」が文字通りの死病となった日常を舞台にしたラブストーリー.補足しとくと『恋愛』が感染率 100%の死病だったのは親の世代までで,今の世代では発症率はゼロではないもののかなり低くなっており,後の世代ではやがて消えるものと考えられている.ただし,親世代は『恋愛』をとうぜん忌避しているし,現世代でも「自由恋愛」はスリリングかつ危険なものとみなされている.
大胆な前提条件はあれど,わりと普通の恋愛小説,かな.明確に存在するはずのない「恋に落ちる瞬間」の定義を,作中でも曖昧なまま進めているのはたぶんわざとだろうなあ.『恋愛』が訪れた途端,ほぼ即死に近い状態に陥るのが変な感じではある.恋愛ってそういうもんじゃないだろう……と第一印象はきわめて野暮だったのだけど,一般名詞の恋愛と固有名詞の『恋愛』が同じものとは限らないなと読みながら思い直した.重くなりそうなテーマを(いい意味で)軽いエンターテイメントに仕立てているのがいかにもらしくて良かったと思う.
にしても,異能力者も超人も出てこない日日日の小説ってすんげぇ久しぶりじゃね? 広げていくのが難しそうなストーリーだけど続編の予定もあるらしいので期待したい.