杉山幌 『R.I.P. レスト・イン・ピース』 (講談社BOX)

R.I.P. レスト・イン・ピース (講談社BOX)

R.I.P. レスト・イン・ピース (講談社BOX)

ここはどこにでもある一つの街だ。先住民系と移民系の二つのサッカークラブがある。一見対立しあっているが、実はそんな簡単じゃない。グループは先住民系、中華系、ラテンアメリカ系の三つに分かれる。言語的には日本語、中国語、ポルトガル語スペイン語の4つになる。
4つの言語を話し、3つに分かれた体を持ち、2つの心が溶け合う、1人の人間。

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経済の破綻と移民政策の実施により,日本の「どこにでもある」工業都市は,いくつもの人種・文化・コミュニティが複雑に絡み合う,そして暴力とドラッグが力を持つ街へと変化していた.物語は移民労働者たちのデモと警官隊との衝突に,「おれ」が移民系のジオ,先住民系のサチコとともに参加する場面から始まる.
講談社BOX新人賞第 7 回流水大賞・大賞受賞作.人種と血に支配される街での出会いと別れ.文化が絡み合う無国籍の街の描き方には説得力があった.昨日までは普通にふざけ合っていた友人が,今日はもういない,それがおかしくない説得力.そんな世界観とさまざまな人種が入り乱れるなか,ヒロインたるサチコの存在感が強烈だった.先住民系左派政治家として街を築き上げた祖父に誇りを抱き,日和見政治家の父を軽蔑しきる.自分だけの主張をまるで斬りつけるように相手に叩きつける.いつでも背筋をピンと張り,誰にも媚びない.強い女を真っ正面から描ききっていた.
なんとなく違和感があったのは物語に宗教が不在だったこと.人種やカネと同じくらい根っこになり得るものだと思うんだけど,宗教について明示的に触れた部分はほんのちょっと.ここは良い悪いでなく単純に気になった.まあ純血主義の描かれ方はほとんど宗教みたいなもんだったけど,既存の宗教を取り込まなかったのはなにかを意図してなのか,と.
世界観とキャラクターとがかっちり噛み合った物語だったと思う.良かったです.