ゆずはらとしゆき 『咎人の星』 （ハヤカワ文庫JA）

咎人の星 (ハヤカワ文庫JA)

でも、これからの話は、回想録ではありません。
居間でノートパソコンのキーボードを叩いている〈わたし〉は、もう、これから起きることを過去形で書くしかないのです。たぶん、起きた後で書くことはできないと思うので、仕方がないのです。
だから、これから語るのは、物語的想像力で解体し、限りなく虚妄に近い与太話として、あらかじめ再構築された真実です。
清浄なる空間を仮構することもなければ、甘美な非真実となることもなく――。

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1990年の春．地方都市の片隅で鬱屈した生活を送っていた少女，永田香名子は，家政夫として現れたハヤタと名乗る犬耳の少年と〈下僕契約書〉を結ぶ．ハヤタはある〈組織〉に所属していた〈殺人序列者〉であり，その罪を贖うため，〈世界の果ての咎人の星〉と呼ばれる辺境の星地球に，〈奉仕対象〉を求めて訪れたのだという．
1990年から2012年にかけて，異星の罪人と共に過ごしたあるひとりの少女/女性の物語．これは相当に変な本だなあ．のっけから金髪ウサ耳幼女と犬耳少年がアダムスキー型円盤の中でセックスしまくったり，エーテルや波動エネルギーが特に説明もなく当たり前に実用化されてたり，やたらと胡散臭い．ハヤカワ文庫というより星海社か講談社BOXかという感じの胡散臭さ，と言えば通じるところには通じるであろう．描かれるのは宗教と学生運動によっておかしくなった母娘三代．少女に母を見るか女を見るか，ジェンダー，セックス（二つの意味で），〈蟲〉によるぐちょぐちょのレイプ，果ては現代の〈萌え〉と，それに翻弄される〈わたし〉と〈ぼく〉の論考．小川麻衣子のイラストにマッチした，繊細で神経質な小説……だと思うけど，どう切り取ってみても変な本である（変な話，ではなく）という印象は変わらない．要素要素は好きなんだけどあまり読みやすい本とは言えず，私にはうまく消化できない部分も多かった．ひとに読ませて感想を聞いてみたいところであります．