デニス・ルヘイン/加賀山卓朗・他訳 『現代短篇の名手たち1 コーパスへの道』 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

現代短篇の名手たち1 コーパスへの道 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

現代短篇の名手たち1 コーパスへの道 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

一度親父に言われたことがある。「さんざん苦労して最後にこうなることがわかってたら、おれが何をしたかわかるか」
そのときおれは十歳かそこらだった。「わからない」
親父は缶ビールを飲み干し、脇に放り捨てて、げっぷをした。「もっと早く死んでたよ」

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全七篇(うち戯曲一篇)の短篇集.
銃を撃つ以外に能のないベトナム帰りの男が,サウス・カロライナの田舎町で放し飼いにされた犬たちを始末する「犬を撃つ」.「ほとんど希望になじみがなく、それが訪れる見込みもない男」が手にしたほんのちょびっとの希望の寂しいこと.個人的にはこれがベストだと思う.
表題作コーパスへの道」は,フットボールの試合で負けた腹いせに,へまをしたチームメイトに嫌がらせを企てた 18 歳の少年の話.狭い視野から生まれた子供っぽい破壊衝動が,より広い視野を得ることで変化する一瞬.解説そのまんまの感想ですが,なるほどなあ.
「グウェンに会うまで」と,「グウェンに会うまで」を再構成した戯曲「コロナド──二幕劇」は刑期を終えて出所した息子と出迎えた父親,そして今はいない息子の恋人をめぐる親子の愛憎劇.より分かりやすい「コロナド」のほうが好みではあるけど,しかしあまりにやるせない.