田中啓文 『ネコノメノヨウニ…』 (スーパーダッシュ文庫)

ネコノメノヨウニ… (集英社スーパーダッシュ文庫)

ネコノメノヨウニ… (集英社スーパーダッシュ文庫)

「だけど、兄貴はまだ幸せなほうだよ。普通に死ねたんだからな。親父は悲惨だったそうだ。俺は覚えてないが、あとでおふくろにきいたんだ。腹から腕が生え、口の中に眼や耳があり、首が床の間と融合しちまって、この世のものとは思えなかったそうだよ」

影の病

はじまりと終わりの 1927 年の出来事,「猫の眼のように…1」「猫の眼のように…2」.降霊術中の殺人事件の真相を知るために執り行われた 1932 年の「二度目の降霊術」の顛末.1945 年,カグヅチさまとその使いである「火盗り蛾」を信仰する村に疎開してきた少年.1973 年,先祖代々に伝わる「影の病」.1999 年 7 月,「滅びの夏」に多元宇宙から呼びかけてくる彼女の声.2021 年,ソリストと伴奏者の間に生まれた誤解が生んだ悲劇,「切れた弦」.2312 年,恒星間宇宙船に乗せられた荷物は,たったひとつの「卵」だった.
コバルトにて連載された八篇のホラー短篇集.一篇一篇の完成度はかなり高い.くすぐりに SF ネタを効かせながら,かっちりと話をつくっている印象.ダジャレがひとつも見当たらないのが新鮮というか不思議というか.おどろおどろしさとグロ,そして「どうしてそうなる!」と突っ込みたくなる面白ギミックが楽しい「火盗り蛾」と,ビジュアル描写がいちいち秀逸な「影の病」が特に好き.良い短篇集でした.