ポール・アンダースン/浅倉久志訳 『タウ・ゼロ』 (創元SF文庫)

タウ・ゼロ (創元SF文庫)

タウ・ゼロ (創元SF文庫)

レイモントはそこで間をおき、言葉を選びながらいった。「スウェーデンの場合は、きみたちが誇りにしている安定性そのものが、終末を招きよせる気がする。すくなくとも地球上で、二十世紀末からなにか重要な変化があったろうか? それが好ましい状態といえるだろうか?」
つけくわえて、「銀河系の中に、もしできるならばコロニーを建設しようという理由のひとつも、たぶんそれだと思う。神々の黄昏ラグナロクに備えて」

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核戦争後.福祉国家スウェーデンを中心として復興を果たしていた地球文明は,第二の地球を求め,恒星間宇宙船〈レオノーラ・クリスティーネ号〉を就航させる.男女 50 人のクルーを乗せた〈レオノーラ・クリスティーネ号〉が目指すのは,32 光年彼方のおとめ座ベータ星第三惑星.出発から 3 年後,順調だった航海は,減速システムの破損という不測の事態に見舞われる.
加速することしか出来なくなった恒星間宇宙船.そこに閉じ込められた 50 人の男女が,やがて見ることになる宇宙の終わりと始まり.〈レオノーラ・クリスティーネ号〉のシステムや宇宙の仕組みは,やさしい科学解説書のような平易な文章で描かれる.難解な表現や独自の用語をほとんど使わない,噛み砕いたそれでいてくどくない説明.すっと頭に入ってくる感じが心地いい.一方で,閉鎖環境で荒み弱っていくクルーたちの様子は,護衛官で憎まれ役のレイモントを中心として描かれる.北欧フリーセックス SF,と聞いてた気がするのだけどそこはまあそれなりに.ただ,日本人が同じテーマで書いたらぜんぜん違うものになっただろうな,という気はした*1.面白うございました.

*1:作者は北欧系アメリカ人