高島雄哉 『ランドスケープと夏の定理』 (創元日本SF叢書)

ランドスケープと夏の定理 (創元日本SF叢書)

ランドスケープと夏の定理 (創元日本SF叢書)

ぼくが三年前、大学の卒業論文として証明した知性定理は、どのような知性であっても相互に繋がり合っていて――物理的な障壁さえ越えられれば――互いに連絡が可能であること、そしてこの宇宙に属するすべての知性はより巨大なメタ知性の一部だと示したものだ。裏を返せば、今の知性とは全く相容れないような別種の知性にはなりえないということで、それを知性の限界と見なす人もいる。

ぼくの姉は,地球でも随一の頭脳を持つ宇宙物理学者である.大学4年生のぼくは,ラグランジュポイントL2の国際研究施設に滞在する姉に呼び出された.どうやら姉は自分の見つけた宇宙とぼくを使って,とある実験を行うことを企んでいるらしい.

第5回創元SF短編賞受賞の表題作「ランドスケープと夏の定理」に,その続き「ベアトリスの傷つかない戦場」「楽園の速度」の2編を加えた全3話.すべての知性は会話をすることができるとする「知性定理」と,我々の宇宙の近傍に数多の宇宙が存在するとする「ランドスケープ仮説」,「脳の量子ゼノン停止」の失敗から生まれた魂である「情報=演算対」…….ラグランジュポイントからグリーンランド近傍を舞台に,数々のSF的アイデアと,新しい宇宙観が展開される.ハードSFの枠組みで,知性ができることと宇宙の可能性を描ききった印象がある.理論や仮説がカチッとはまって,形になる過程が見えるというか.

もうひとつの特徴が,女性陣の存在感がものすごく強いこと.もうひとりの自分なのになぜか妹ということになった「情報=演算対」,姉の友人である大学院の担当教授.そして何より,好き勝手に弟を振り回すうえに十兆人以上に増える姉.質・量ともに他を圧倒する.姉SFの傑作でありました.