蕪木統文 『スプリング・タイム』 (ガガガ文庫)

スプリング・タイム (ガガガ文庫)

スプリング・タイム (ガガガ文庫)

だが、そうした感覚は、どうして生じるのだろう。懐古物、思い出、記憶に纏わるもの、そうした品々を手に入れたとしても、とっくに通過してしまった場所を再び訪れられるわけもないのに。
あってもなくても“今”という“結果”は変わりはしないのに。

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いわれのない喧嘩を売られ,自転車を失くしと,散々な目にあった高校生の水戸部尚太.二度あるトラブルは三度ある.その帰り道,三輪車に乗った幼稚園児に大声で呼びつけられる.彼を呼び捨てにしたのは,十年前に行方不明になった,そのままの姿の友人だった.
「また十年後ねー」.時間を隔てたふたりの,つかの間の奇妙な再会劇.幼稚園児に振り回されながら,子どもの頃を思い出し,過去という時間の持つ意味を,静かに紐解いていく.これもいちおう時間 SF と呼んでもいいのかな.タイムトリップの仕組みはぼやかしつつだけど,味わいはまさに時間 SF のそれだし.子どもの顔を指して遮光器土偶に似ているなど,端々の表現も面白い.ラストは正直納得いかないのだけど,あっけないほどさらっと描いているのはそこのところ自覚していたからなのかな…….