- 作者: マイクル・フリン,嶋田洋一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
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クレンク人は先を続けた。「自然哲学は、別々の技術において別々に発達する。たぶんおまえたちは“別世界”というものを……まったく別の方法で理解したのだろう」ふたたび窓の外を見て、「われわれにも救済があればいいが……」
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そのあとゴットフリートはディートリヒに近づいて尋ねた。「天から来た領主は祝福されたローレンツの妻を救わなかった。何のために助力を祈るのか?」
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ディートリヒは首を横に振った。「人はみな、死んで主のもとに呼ばれるのです」
「もっと穏やかな呼び方はできないのか?」ゴットフリートがいった。
14 世紀半ば,ドイツの小さな村に異変が起こった.上ホッホヴァルトと呼ばれていたその村は,その後アイフェルハイムと名前を変え,ひとの棲まない忌み嫌われる土地となり今日に至る.アイフェルハイムになにがあったのか,現代の統計歴史学者トムと宇宙物理学者ナギーは謎に迫る.
バッタのような姿をした異邦人たちと,ドイツの片田舎の人々の出会い.村に住むディートリヒ神父の目を中心として描かれる 1348 年のファースト・コンタクト物語.細部にものすっっっごくこだわった,普通のファースト・コンタクトものという風情.クレンク人の造形の複雑さが強烈だった.これというオーバーテクノロジーがあるわけでもなし,性格的にはむしろ野蛮.共有できる価値観を持ちながら,完璧には噛み合わない.「人間らしさ」を持っているのは間違いないんだけど,単純な「擬人化」は通用しない,という.
中世ドイツの生活や考え方もディテールが凝っていて非常に面白く(オッカムが上ホッホヴァルトを訪れたりする),特に「神」や信仰が生活に与える影響が強く印象に残った.なんでも押し付けることのできる偉大で都合の良い存在として,物語全体に重くまとわりついている.でも信仰と頑迷はぜんぜん別物なんだなあ,とか.ここらの解釈があってるのかはいまひとつ自信がないのだけど,そこも含め基礎教養が足りなくて見落としている部分は多いだろうなあと思うとちと悔しさもある.ともあれ,傑作であることは間違いないです.いつかきっと再読したいと思わせてくれる作品でした.