ポール・ホフマン/金原瑞人訳 『神の左手』 (講談社)

神の左手

神の左手

「教えてくれないか、お嬢さん。あなたはあの少年を愛している。そしてそれは正真正銘のけがれなき愛のようだ……」砂糖をまぶした悪意をアルベルに飲みこませるために、ボスコは間をおいた。「それでも、感じたことはないか……」彼はまた間をおいた。適切な言葉を慎重に選んでいる。「あの少年がどこか死をにおわせることに」

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ショットオーヴァーの台地にそびえる巨大な監獄,聖域(サンクチュアリ).そこに住まう名ばかりの救世主(メシア)たちは,近隣からさらってきた少年たちを監禁し,異端者(アンタゴニスト)と戦う戦士に鍛えあげ続けてきた.修道生の少年・ケイルはメシアに殺されそうになった少女を助けたことをきっかけに,サンクチュアリからの脱出を図る.
中世(?)が舞台となるダーク・ファンタジー.サブタイトルを付けるなら「少年期の終わり」かな.明らかにヤングアダルト向けなのに,ラストに至るまで(というか至っても)カタルシスがほとんどないというのは珍しいのではないかしら(三部作の一作目ということもあるか).ストーリー自体の目新しさはさほどないと思うけど,「『ハリー・ポッター』以来の明るく健全なファンタジー界に、ほうき星のように飛びこんできた、怪物のような作品」と訳者が言うのも分かる気がする.