竹内佑 『最弱の支配者、とか。』 (ガガガ文庫)

最弱の支配者、とか。 (ガガガ文庫)

最弱の支配者、とか。 (ガガガ文庫)

世界だって大変なのだろう。いろいろと。けれども俺の周りだけは。俺の生活する範囲だけは平和であってほしい。代わりに、俺も世界に何も変革や事件を求めないから。平凡なことだけ起こってくれ。明日も、明後日も、三十年後も。
何かありえないことが起こってもそのときは、俺は全力で目を逸らすから。

Amazon CAPTCHA

「教室を出るとき、そう言ってただろ? 一緒に昼飯食べたから友達だって。あれ、嘘だったのか?」
「嘘じゃ、ねえよ」
「じゃあ、お前が助けてやれよ、ユキト。友達が未来から来たって言うなら信じてやれよ。そんなこともできないんなら──友達だなんて軽々しく言うなよ」
言い返せなかった。

Amazon CAPTCHA

高校一年生,松原ユキトの前に,空から少女が降ってきた.その少女,桑畑は三十年後から世界の支配者である松原ユキト総統様の命令でタイムスリップしてきたと言う.平凡であることを是とするユキトは全力で彼女を無視することに決めるのだった.
芝居流通センターデス電所の作・演出担当者によるライトノベルデビュー作.セリフを大切にする作家という印象を読んで受けた.ざっくりした印象ではあるけど,最近の演劇出身作家はそれぞれにしっかり個性が出ているなあ,というのが『天狼新星 SIRIUS:Hypernova』(感想),『柳生浪句剣』(感想),そしてこれを読んで思ったこと.
物語の大きなテーマのひとつが「いじめ」.安直さを排除して,できる限り真摯な態度で描写しているのは間違いない.それでいて陰湿な方面に偏らず,エンターテインメントとしてバランスも取れている.このへんは主人公の存在も大きいのかな.平凡な生活を志向する主人公,ってのはライトノベルではかなり多いのだけど,アグレッシブにそっち方向を目指しているというのはちょっと珍しい.最近のニュースを見ると,事実は小説より奇なりって本当だよなあ,と思ってしまうのだけど,そこを突っ込むのはさすがに酷よな.まあ,そこを置いても第四章,第五章のクライマックスがすんなりと落ち着くのが違和感ではあったけど.しかし他の著作があるようなら読んでみたいし,もっとこういう作品を書いてほしいな,ということは素直に思う.良いものでした.