ドン・ウィンズロウ/黒原敏行訳 『サトリ』 (早川書房)

サトリ(上) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

サトリ(上) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

サトリ(下) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

サトリ(下) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

「それは雨の滴となってやってきます」雪心はニコライの問いを無視して説明を続けた。「あるいは笛の遠音や、舞い落ちる一枚の葉となって。もちろん準備を整えておかなければなりません。でなければ気づかないうちに通りすぎてしまいます。準備を整え、目を開いていれば、ちゃんと見えて、不意にすべてが理解できる。そのときあなたは自分が何者であり、何をなすべきかを知るでしょう」
「それが〈サトリ〉か」
「それが〈サトリ〉です」雪心はうなずいた。「思念は人を囚われ人にし、また解放もするのです」

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1951 年,東京.巣鴨拘置所を出所したニコライ・ヘルは,CIA 局員のハヴァフォードから,北京に駐在している通商参事官にして KGB 幹部であるヴォロシェーニンの暗殺を依頼される.
己の復讐のため,愛した女のため.誰よりも日本人の心を持つ男は戦う.日本,北京,ヴェトナムと,舞台を移しながら様々な勢力や思惑を絡ませつつ,場面をくるくると変えながら非常にスピーディに進むアクション&バイオレンス&ハードボイルド&冒険小説.〈サトリ〉(悟り),〈シブミ〉(渋み)など日本的精神を解釈し,中国,アメリカ,ソ連,イタリアの精神性と分かりやすく対比してくれるのが面白い.合っているような,微妙にずれているようなオリエンタルな日本観がまた面白い雰囲気を出している.肩のこらないエンターテインメントになっていると思う.
トレヴェニアン『シブミ』を題材に,その前日譚をウィンズロウが書いた! ということで話題になっていたのだけど当方未読.読んどいたほうが楽しめるのは間違いなかろうなー.