カミツキレイニー 『憂鬱なヴィランズ』 (ガガガ文庫)

憂鬱なヴィランズ (ガガガ文庫)

憂鬱なヴィランズ (ガガガ文庫)

「……君が彼を“悪役”にしたんだよ。ピンチの時にだけ現れる、そんな都合のいいヒーローじゃない。絶対に謝らない、そんな子供っぽいヒーローじゃない。時に迷い、時に悩み、間違いもするけれど、それでも自分の信念を持って妹だけは守り抜く、そんな魅力的なダークヒーローに、君がしたんだ」
両腕を伸ばした月夜は兼亮の頭へ手を添え、その胸に抱き寄せた。
「……そしてそれは、君にしかできないことだった。彼の葛藤や決意や、妹に対する想いを理解して、寸分違わず彼の言葉を代弁することのできる、君にしか」

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親友の煮雪瞑が書き置きをのこして失踪してから一週間と五日が経った.瞑の妹・日和とバスで通学していた兼亮は,バスジャックにあう.発砲するバスジャック.車内に現れる蒼い瞳の少女.そして暗転.
赤ずきん』であればオオカミ,『白雪姫』なら王妃.“絵本”のなかの悪役“ヴィランズ”に魅入られた者は,“ヴィランズ”に取り憑かれてしまうという.おなじみの悪役をモチーフにした異能バトルもの.ヴィラン(悪役)とヒーローの話,といっても「ダークナイト」や「アベンジャーズ」のようなものではなく,良くも悪くもライトノベル的であり卑近でもあり.妹にとってのヒーローであり,親友にとってのヒーローだった「謝らない子供」.その存在がどのように変わっていったのかを,異能バトルのスタイルに乗せてウェットでスタイリッシュに描いている.物語のもうひとつの肝である兄妹関係の描き方も,非常に粘度が高い.妹が「サイドテールを解いた」意味を考えてぞわぞわした.
前後する時系列が分かりにくいのをはじめ,完成度は必ずしも高いとは言えないんだけど,同じく童話がキーになっているデビュー作『こうして彼は屋上を燃やすことにした』(感想)とあわせて,このひとの作品はしみじみと好きだな.