カミツキレイニー 『憂鬱なヴィランズ3』 (ガガガ文庫)

両親のそんな情けない顔を見るのは初めてだった。
少年は初めて、二人に勝ったのだと思った。自分は今、解き放たれたのだと思った。
しかし興奮は一瞬で、そのあとに訪れた後悔は、少年をひどく惨めにさせた。
首の折れた文鳥を握り、少年は立ち尽くす。今までそう教育されてきた通りに、少年は失敗から学ぼうとした。死んだ文鳥から学べることは何だ。
ひとつ、迂闊に熱くなってはいけない。そしてもうひとつ。努力したところで、解き放たれたところで、どうしたって悲劇に違いない、ということだ。

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『いいか、この世界は悲劇に溢れている。絶望は誰にでも等しく訪れる。容易に母は娘を捨て、兄は妹を襲い、大人たちは子供を利用するんだ。救いようのない最低な物語さ。だが人間を決めるのは、そこから立ち上がれるかどうか、だろう』

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放課後の学校.響き渡る女生徒の悲鳴.兼亮と千鳥が駆けつけるとそこには顔一面にガラスを割ったような亀裂が入った女生徒がいた.そこに居合わせたスクールカウンセラーの印南は,ワーストエンド・シリーズのひとつである『ピーター・パン』の読み手であった.
絵本の悪役たち(ヴィラン)をモチーフにした異能シリーズ三巻は,「絵本」と能力の誕生の秘密が明かされる.『ピーター・パン』の読み手で“フック船長”の能力の使い手である印南が非常に良いサイコパス.絶望するのにトラウマなど必要ない.ただ,大人になるだけで悲しみは蓄積される,とのたまい,平静であることを良しとする印南の行動はマイナス方向に一貫しており,ここまでのシリーズでもいちばんの魅力ある「悪役」となっている.ヒロインである月夜の過去と印南の過去と心の闇がつづら折りのように描かれ,こちらの心にもどよーんのしかかってくる.基本的にはちょっとひねくれた異能バトルものだと思うんだけど,一般的な学園バトルものとは別のセンスで書かれている気がしてならないのよな.どこがどう,と言われると今のところうまく言語化できないんだけどね.