アルフレッド・ベスター/中村融編訳 『願い星、叶い星』 (奇想コレクション)

ボインの真剣そのものの表情に気圧されて、ナイトは口ごもった。それから――「安心がほしい」
「そんなものはありません。人生は危険の連続です。死んではじめて安心が得られるのです」
「ぼくのいいたいことはわかるはずだ」とナイトはつぶやいた。「人生は計画を立てる値打ちがあるかどうか知りたいんだ。原爆があるご時世だから」

時と三番街と

『虎よ、虎よ!』(感想)で知られるアルフレッド・ベスターの日本オリジナル短篇集.1940年代発表の作品が二本,1960年代の作品が一本,残りは1950年代発表.時代を反映しているのか,人類の終末の前後を描いた話が多いのだけど,同様のテーマを描く現代の作家(例えばバチガルピ)と比べると,戦争と原爆の影が当たり前にあってかなり濃い.
アンドロイドと持ち主の男の共感覚を描く「ごきげん目盛り」,この作品集では唯一かもしれないいい話「時と三番街と」,ブラックな皮肉のたっぷり効いた「選り好みなし」,悪魔と出会った六人が叶えた願い事「地獄は永遠に」が特に好みかな.他の収録作は「ジェットコースター」「願い星、叶い星」「イヴのいないアダム」「昔を今になすよしもがな」