紅玉いづき 『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』 (角川書店)

たとえば彼女達は特別な糊を使い、一重まぶたを二重にする。そして睫毛を植毛し、カールをかける。その事と、病院に行き手術台に横たわり顔にメスをいれることは、どれほどの隔たりがあるのだろう。
私達は心と身体をつくりかえ生まれ変わろうとする。精神であれば許容され、身体であれば蔑視されるのはおかしいことだろう。
そして、彼女は人形なのだ。
人形師がとがりすぎた鼻を削るように、への字になった口角をあげて作り直したところで、それが間違いだとは到底思えない。

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経済特区となったベイエリアに作られた少女サーカスは,その名の通り少女だけで構成されたサーカス団.文学者の名前を与えられた曲芸子たちは,今日も華やかな舞台に立つ.ブランコ乗りのサン=テグジュペリ,猛獣使いのカフカ,歌姫アンデルセン,パントマイムのチャペック…….
不完全であること,未熟であること,不自由であることを是とする,少女だけのサーカス団の現在,過去,未来.少女たちが華やかさの裏に抱えた,それぞれの陰を美しく切り取る.紅玉先生を読むのも久しぶりだったけど,いまいち踏み込みが甘い気がして,思いのほかピンとこなかった.パントマイムのチャペックのエピソードがいちばん良かったと思うけど,ここももっと掘り下げられたんじゃないかなーと.テキストはきれいだし,ストーリーとテキストの鋭さに瞬間的にぞっとする部分も多々あれど(「認められるということは、いつか幻滅されるということ」にはゾワッとした),少女たちの事情を汚く泥臭く描いてこそのこのテーマ,と思うのよな.