瀬那和章 『レンタル・フルムーン 第一訓 恋愛は読みものです』 (電撃文庫)

「あのさ、あんたはよく面倒くさいっていうけど、楽しいことってのは基本的に面倒くさいものだと思うよ。私が今までで楽しかったなーっていうの思い出してみたら、ぜーんぶ面倒くさいんだ。文化祭の準備したり、料理の練習したり、少しでも可愛く見られるために洋服選んだり美脚ヨガやったりね。このぞっとするくらい長いジンセイから面倒なことを取ったら、どうやって時間を潰すのよ。面倒な恋愛でもしてなきゃ、やってられないじゃん」
あまりにも姉らしい言葉だった。
肩の力が、抜けた気がした。

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子どもの頃の事故により,ひとには見えないものが見える体質を持つ高校生・桐島新太は,読書を趣味にしながら地味に生きていた.ある日,偶然見かけた貸本屋「満月堂」にふらっと立ち寄った新太は,そこで愛想の悪い店員の少女とオコジョ娘に出会い.
ぱっと読んだ感じではボーイ・ミーツ・ガールの学園異能なのだけど,背景にある世界観が面白い.過剰な人間原理と,それでいて創造神やら天使やらが人間の埒外にいるらしい,という.さらにいまいる世界はつくられたものであり,世界は誰が考えるよりもずっと曖昧で危ういものである,という世界観.描きようによってはものすごくネガティブになる設定を,すごく前向きなものとして話に活かしているのがすごく良いと思う.面倒なことはたいてい楽しいし,楽しいことはだいたい面倒くさい.こういうことを正面から書ける作者のセンスは好きだな.デビュー作以来,ものすごく久しぶりに読んだのだけど,もうちょっと既刊を追ってみてもいいかもしれないと思いました.