森川智喜 『一つ屋根の下の探偵たち』 (講談社)

一つ屋根の下の探偵たち

一つ屋根の下の探偵たち

「実はいま、新しい下宿を探しているんです。いい物件、どこかにないもんですかね」
「そいつは不思議だなあ! 今日そういうことを俺に言うのは、君で三人目だよ」
四宮先輩が意外なことを言ったので、私は続けて尋ねた。
「三人目? あと二人もいるんですか」
「うん。いい物件を見つけたんだけれど、一人には負担が重すぎるし、といって半分持ちあってくれる者はないしって、ぶつぶつ今朝こぼしてたっけ――二人とも。だから、俺は二人を互いに紹介したんだよ。そしたら、彼らはハウスシェアを考えはじめたみたいだったね」
ハウスシェア! その手があったか。

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アリのように探偵をする町井唯人.キリギリスのように探偵をする天火隷介.妙な縁から二人の私立探偵とハウスシェアをすることになった新人エッセイストの浅間修は,仕事として二人の同居人の探偵勝負をルポルタージュとして書くことになる.勝負の対象となる事件は,旅亭経営者餓死事件,通称「アリとキリギリス」事件.
対照的な二人の探偵による,内側から鍵のかかった部屋で男が餓死していた事件の謎解き対決.そしてそれを観察する一人のワトソン.導入が『緋色の研究』まんま(ただしひとり多い)でわろた.ご丁寧に延原謙訳の引用までつけていて,自分のようなホームズに明るくない読者にも優しい.アリの捜査とキリギリスの捜査,アリの犯罪とキリギリスの犯罪,アリとキリギリスの優位性,みたいなやり取りをコミカルに料理していて,さらっと読めて楽しい.大人げない主人公がその最右翼だと思うが,なんかそれぞれに心ない点がある登場人物たちも良い.ひとつだけ,タイトルやカバーイラストのわりに,キャッキャウフフ感が薄いのは普通に不満であった.ともあれ,楽しゅうございました.