- 作者: ジェイン・ロジャーズ,Jane Rogers,牧野千穂,佐田千織
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/07/10
- メディア: 文庫
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いまから思えば、なんてばかげた、なんてふざけた、なんてありえないことを考えていたことか。でもそれが、わたしの考えたことだった。わたしはほどんど息もせずに静かに横たわり、目の前に広がっている空間の海に身を漂わせた。ややこしい議論も妥協もない、なにかまっすぐなことをするために。世界に変化をもたらすであろうなにか。ほかの誰かに頼ることなく、自分の力の範囲内でやるべきなにか。父さんに誇らしく思ってもらえるであろうなにか。わたしは枕と掛け布団をベッドから引き寄せ、床の上で体に巻きつけた。このままブナの木を見つめつづけ、その自由が広がっていくにまかせられるように。行動する自由が。自分で決めたなにかをする自由が。
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全人類がMDS――
アーサー・C・クラーク賞受賞作,ブッカー賞候補作.“『たったひとつの冴えたやりかた』の純粋さで、『わたしを離さないで』の衝撃を描きだした近未来フィクション”という帯の惹句は決してウソではない.ウソではないんだけど,純粋さと○○は紙一重というのかな.語り手の少女ジェシーの,妥協することのない真っ直ぐな姿勢が非常に気持ち悪い,と思ってしまった.世界を変えたいと願い,両親をなんとか説得し理解してもらおうとする.幼さゆえの想像力の欠如はあると思うんだけど,自己陶酔とか暴走とか両親への反抗とかではなく,本当に混じりっけなしの純粋さで行動しようとしてるんだよね.それがすごく気持ち悪かった.たいていの読者は,語り手である少女よりその両親に感情移入するんじゃないかなあ.たぶん作者の狙い通りだと思うんだけど,世代によって受け取り方が違ったりするのだろうか.例えば子を持つ親の立場で読んでみると,また違った感想を抱いたりするんだろうか,とか.面白い,とは素直に言えない作品なんだけど,すごく不安な気持ちになりました.