ジェイン・ロジャーズ/佐田千織訳 『世界を変える日に』 (ハヤカワ文庫SF)

世界を変える日に (ハヤカワ文庫 SF ロ)

世界を変える日に (ハヤカワ文庫 SF ロ)

いまから思えば、なんてばかげた、なんてふざけた、なんてありえないことを考えていたことか。でもそれが、わたしの考えたことだった。わたしはほどんど息もせずに静かに横たわり、目の前に広がっている空間の海に身を漂わせた。ややこしい議論も妥協もない、なにかまっすぐなことをするために。世界に変化をもたらすであろうなにか。ほかの誰かに頼ることなく、自分の力の範囲内でやるべきなにか。父さんに誇らしく思ってもらえるであろうなにか。わたしは枕と掛け布団をベッドから引き寄せ、床の上で体に巻きつけた。このままブナの木を見つめつづけ、その自由が広がっていくにまかせられるように。行動する自由が。自分で決めたなにかをする自由が。

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全人類がMDS――母体死亡症候群(マターナル・デス・シンドローム)――に感染し,もはや二度と子供が生まれなくなった世界.人々はさまざまな行動に走りだす.科学批判をする者,宗教に縋る者,テロを起こす者…….16歳の少女,ジェシーは,世界を変えるためのある決意をする.
アーサー・C・クラーク賞受賞作,ブッカー賞候補作.“『たったひとつの冴えたやりかた』の純粋さで、『わたしを離さないで』の衝撃を描きだした近未来フィクション”という帯の惹句は決してウソではない.ウソではないんだけど,純粋さと○○は紙一重というのかな.語り手の少女ジェシーの,妥協することのない真っ直ぐな姿勢が非常に気持ち悪い,と思ってしまった.世界を変えたいと願い,両親をなんとか説得し理解してもらおうとする.幼さゆえの想像力の欠如はあると思うんだけど,自己陶酔とか暴走とか両親への反抗とかではなく,本当に混じりっけなしの純粋さで行動しようとしてるんだよね.それがすごく気持ち悪かった.たいていの読者は,語り手である少女よりその両親に感情移入するんじゃないかなあ.たぶん作者の狙い通りだと思うんだけど,世代によって受け取り方が違ったりするのだろうか.例えば子を持つ親の立場で読んでみると,また違った感想を抱いたりするんだろうか,とか.面白い,とは素直に言えない作品なんだけど,すごく不安な気持ちになりました.