小川一水 『天冥の標 IV 機械じかけの子息たち』 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

その最後の瞬間、少年はほとんど何も見ず、何も聞かず、何も嗅がず、味わいもしないまま、外なる自分である少女を感じ尽くそう、採り尽くそうとして動いていた。驚くべきことがわかった。その瞬間の自分は本当に少女と同じだった。どちらに突出したペニスがあり、どちらに体内へとくぼんだヴァギナがあるかということとは全然関係なく、どちらも相手のすみずみまで入りこもうとしていて、どちらも相手をすみずみまで手に入れようとしていた。
「くうぅんっ……!」

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軌道娼界《ハニカム》に住む五千体の《恋人たち》(ラヴァーズ)は,『混爾』(merge)と名付けられた究極のセックスを盲目的に模索していた.宇宙船の事故から《ハニカム》に救出された救世群(プラクティス)議長の義弟・キリアンは,目覚めた病室にいた《恋人たち》の少女・アウローラとなし崩し的にことに及ぶ.
満たされた究極のセックスを求め,様々なプレイとシチュエーションが何度も何度も繰り返し描かれる.「それなんてエロゲ?」的な感想をあちこちで目にはしていたのだけど,実際読んでみたら本当にエロゲだったのでちょっとびっくりした.ルビを多用した固有名詞の数々(聖少女警察(バージン・ポリス)だの無限階層増殖型支配型不老不死機械娼像(ピラミッド・スキーム・プロパゲーティング・アンド・コントローリング・インモータル・セックスマシン)だの)や,いろいろ都合よく用意されるエロシチュエーション(しかもすべてが初体験)という,いかにもこういう SF エロゲあるよね,という話の流れ.こんなテーマなのに乱交えろえろな話にならず,一定のベクトルは保たれている,気がする.ここは保守的な性倫理観を持つ少年を主人公に据えたのが良かったのかな.割と他愛ないエピソードだとは思うのだけど,エピローグで提示される当たり前の結論にはなぜか感動させられてしまった.