チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通訳 『クラーケン』 (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(上) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(上) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(下) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(下) (ハヤカワ文庫SF)

「私の同僚が文句をつけているのは、聖ヨハネの洪水が押し寄せてきているからなんです。終末論がちょっとした流行でしてね」こともなげに言ってのけたので、ユーモアらしきものは感じられなかった。「私たちは滅亡を競い合う時代に生きているんですよ」
コリングズウッドがさらに続ける。「神々の黄昏(ラグナレク)対ゴーストダンス対カリユガ対キヤマー、その他いろいろ」
「最近は悔い改めさせようという連中が多くてね。黙示録(アポカリプス)については買い手市場ですよ。異端のハルマゲドンでもちきりです」
「そういうのは昔っから、たわいのないおしゃべりだったはずだわ。ところがそれがいきなり変わり、今は何かが本当に起きている」

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ロンドンの自然史博物館に勤務するキュレーター,ビリー・ハロウは,ダイオウイカの標本を担当している.見学者の引率をしていたビリーは,ホルマリン水槽から一瞬目を離した隙に,ダイオウイカが水槽ごと忽然と消失したことに気付く.騒然となる博物館,あぜんとするビリー.そんなビリーに,《原理主義者およびセクト関連犯罪捜査班》と名乗る魔術担当の刑事たちが現れる.
現代という皮の下に別の顔を隠し持つ魔術都市ロンドンで,様々な勢力が入り乱れ,消えたダイオウイカを追う.カルトと魔法とSFとその他いろいろをどちゃっと加えた,悪ガキ向け『アンランダン』(感想)という風情のロンドンファンタジー.実はロンドンのあちこちには魔法使いやカルト結社が潜んでいたんだよ! というボンクラ風味が楽しい.労働組合を作った使い魔(猫や鳩)たちがストライキを起こしたり,ダイオウイカを信奉するイカ教団やら大昔から生きている魔法使いコンビやら〈ロンドンマンサー〉やらがドタバタしているうち,世界の終わり(宗教の数だけ終末がある)が近づいてくる.個人的な感想だけど,赤塚不二夫の絵柄で読みたくなる感じのシーンがどんどんと流れてくる.楽しい! けど長い!