アンドリュー・カウフマン/田内志文訳 『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』 (東京創元社)

銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件

銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件

母親の家に着いて車を停め、外に出ようとしたところで、小さな声が耳に届いた。「これこれ、気をつけなさいな」と蚊の鳴くような声がしたのだ。ビショップが見下ろしてみると、彼は、およそ九十八分の一ほどの大きさに縮んでしまった母親を、今にも踏みつぶしかけているところなのだった。彼は足を宙に浮かせたまま、家の前庭を眺め回してみた。庭のあちらこちらに、小さくなった母親の姿が見えた。歩道の上にもいる。玄関口の階段にもいる。そこかしこに、小さな母親たちがいるのだ。
「ごめん」デイビッドは言うと、注意深く歩道に足を降ろした。
「そんなにびっくりおしでないよ」小さな母親が言った。「歳を取るってのは、こういうもんさ」
「いやいや、馬鹿言っちゃいけないよ」

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カナダの銀行に現れた銀行強盗は,その場にいた13人から“もっとも思い入れのあるもの”を奪って立ち去る.その日から,被害者たちの身にさまざまなおかしな出来事が襲い掛かる.
作者の日本初刊行作であるとのこと.銀行強盗にあった結果,日に日に体が縮んでしまったり,98人(さらにもっと)に分裂したり,夫が雪だるまになってしまったり,職場が水に沈んだり,子供がお金をひり出すようになったり…….影絵を大胆に使ったイラストが目に楽しい.描かれる事象は非常に奇妙なのだけど,描写はシンプルでいまいち脈絡が見えない.このシンプルな文章には実はいろんな意味が隠されているらしい.のだけど,私はそのへん訳者あとがきを読むまでまったく分からず,面白さのツボも分からず.なんか申しわけない.