長谷敏司 『My Humanity』 (ハヤカワ文庫JA)

My Humanity (ハヤカワ文庫JA)

My Humanity (ハヤカワ文庫JA)

それも言語が作る錯誤だ。彼は、自分にとって価値があり素晴らしいと思うものを整理するとき、対象(それ)を《好きなもの》だと言う。「好き」の枠はいい加減で、たくさんの「好き」なものを入れられる不定形の箱(ブラックボックス)になるからだ。彼は、「好き」の枠内に対象(それ)を組み入れる。そうすることで、すでにこのいい加減な《不定形の箱(ブラックボックス)》に入っていた多数のものとの関係がねつ造される。こうして、彼は「好き」を中心に「もの」の価値を整理しているのだ。

allo, toi, toi

『あなたのための物語』(感想)のスピンオフとなる「地には豊穣」「allo, toi, toi」.『BEATLESS』(感想)のスピンオフHollow Vision」,そして書き下ろしの「父たちの時間」を収録した長谷敏司の初の短篇集.まえふたつは再読だったのだけど,『BEATLESS』を読んだいま改めて読むと,キーワードや思想が『あなたのための物語』からダイレクトにつながっているのがわかるなあ.個人的なベストは「地には豊穣」なんだけども,後半の作品に行くほど,古いSFのにおいが強くなっていくのが不思議だった.特に「父たちの時間」は前提がよくわからないのよな…….未曾有の大震災を経験しているはずの日本人が,「千年は暴走しないはず」のナノロボットを使って原発を再稼働させることを受け入れ,案の定大変なことが起こる,という.現代のSFだと思うと古すぎると思うのだけど,これは狙ってのことなのか,正直なところさっぱりわからない.もんやりした気持ちになるなあ.読み終わってまずしたのは「ゴジラ 性別」でググることでした.