森田季節 『不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)』 (ガガガ文庫)

勘弁してくれよ……。
俺は自分は強いんだという自負心で、かろうじて底辺を生き抜いてきたのに。
それを根底から壊すって、あんまりじゃないか……。

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異能力制限法により,異能力者の活躍の場は,テレビやショーといったエンターテイメントの中だけに限られるようになっていた.暗殺者の末裔にして煌霊使いの冬川朱雀の能力は暗殺異能.現代では必要とされないこの能力では,どれだけ実力があろうとも仕事もないし人気も出ないし食っていくこともできない.
「完全に作者が完全に趣味で書い」たという現代異能.前に同じようなコメントとともに発表された作品もあったけども,こちらのほうがエンターテイメントノリで楽しいな.異能力者は芸能人扱い(各々で事務所に所属して仕事をもらっている)で,仕事のない主人公は作中で言われるようにほとんど売れない芸人のようなもの,という.本当は最強の力があるのだ,と自負しながら貧乏生活を送る朱雀に,静かに寄り添う煌霊の小手毬,というふたりの昭和夫婦っぷりよ.もちろん,異能力者を芸能人に置き換えただけではないんだけどね.章ごとに飲み会のシーンがあるライトノベルをはじめて読んだ気がするのだけど,その飲みの場面がなんか妙にしみったれた……というか地に足着いたもので心くすぐられる.しかしこれ,一発ネタのようで,突き詰めればさらに面白くなりそうなテーマではあるよな.良いものでした.