名倉編 『異セカイ系』 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

あー。なにから書けばいいかな。いままでとちょい勝手ちゃうから戸惑う。

要するに。

助けてください

ゆうわけです。

小説投稿サイトでトップ10入りを果たしたおれは,ひょんなことから現実と自分の書いた小説世界を自由に行き来する能力を手に入れる.現実と異世界の行ったり来たりをエンジョイしていたおれは,小説世界の王女が間もなく殺されてしまう運命を悟る.それは,おれが書いた小説の筋書き通りだった.

第58回メフィスト賞受賞作.現実のおれ=作者=主人公の自己満足によって意図せず生まれてしまった異世界.現実も異世界も物語も含めたすべてのセカイを救おうとするおれは,「作者への挑戦状」を突きつけられる.なろう小説から生まれた世界がメタ的に現実を巻き込んでゆく,クラインの壺状の構造は実にメフィスト賞らしい.

なかなかひねくれた手法と対象的に主人公が徹頭徹尾善人で,ここはまったくメフィスト賞らしくない.物語と現実の構造と関係,作者が「世界」を作り操ることのエゴ,作者の生み出したキャラクターの自由意志の尊重.物語への愛ゆえに心から悩み,正直に行動する関西弁の主人公には胸を打たれた.テーマに対する真摯な姿勢が見えて,期待していたのとはだいぶ方向が違ったけどとても良いものでした.