酒井田寛太郎 『放課後の嘘つきたち』 (ハヤカワ文庫JA)

放課後の嘘つきたち (ハヤカワ文庫JA)

放課後の嘘つきたち (ハヤカワ文庫JA)

「なぁ。どうして君たちは、いつもそうなんだ?」

常に余裕をまとわせ、人を見下したような物言いをする御堂にしては珍しく、苛立ちを含んだ口調だった。

「一人の人間のなかに、尊敬に値する面と軽蔑を禁じえない面を見つけた時、君たちはいつも後者を本性とみなす。それまでの善意も、優しさも、献身も、まるですべて嘘だったかのように」

怪我で暇を持て余したボクシング部のエース、蔵元修は、幼馴染の同級生白瀬真琴に誘われて部活連絡会に参加することになる。県内屈指のマンモス校である英印高校には、全国クラスの個性の強い部活が集う。修と真琴はまず演劇部のカンニング疑惑を探ることになる。

演劇部のカンニング疑惑、陸上部の幽霊騒ぎ、映画研究会の作品改竄。放課後の謎と嘘を、部活連絡会の三人はそれぞれに嘘を抱えながら解き明かしてゆく。青春ミステリ連作短編集。真実が必ずしも明快なものとは限らないし、解き明かさないほうがいい真実もある。デビュー作の『ジャナ研の憂鬱な事件簿』を、さらにビターで憂鬱にしたような印象。作風が一貫している。わかりやすい造形かと思った三人の登場人物が、語りと「嘘」を経て、強い個性と複雑な人間らしさが浮かび上がってくる感覚がある。良い青春小説でした。『ジャナ研の憂鬱な事件簿』と合わせてぜひ。



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