手代木正太郎 『鋼鉄城アイアン・キャッスル』 (ガガガ文庫)

皮膚が人とは思えぬ真紫色をしていた。剃髪なのは僧ゆえ当然だが、頭髪のみならず眉一本、睫毛一本すらもない。鼻が猛禽の嘴を思わせて高く、耳は出羽山中に巣食うという叡流風(えるふ)天狗のごとく長く先が尖っている。だが、何よりも佐吉の胸に寒気を感じさせたのは、その目だ。

ギョロリと大きなまなこに対し、異様に黒目が小さい三白眼。見つめられるとさながら爬虫生物の凝視を受けているかのごとき気味の悪さがあった。妖相と言っていい顔貌である。

息を呑む佐吉へ、僧は独特の甲高い声でこう名乗った。

「拙僧は太原雪斎と申す」

ときは戦国。太田道灌によって生み出された鐵城(キャッスル)築城術によって、戦国の世は大いに乱れていた。三河国額田郡岡崎の若き当主にして鐵城(キャッスル)・岡崎城の城主、松平竹千代。のちの徳川家康となる少年は、心の臓が鉄と化す病に侵されていた。

鐵城(キャッスル)とは、龍氣を糧として城郭に命を与えて、城主の意のままに操る超兵器である。日本全国に巨大ロボットが跋扈する戦国時代、軽快な講談調で語られる若き日の松平竹千代の三河国統一記。ちなみにこれまで作者は講談調を意識していなかったとのこと。

戦国時代の小説なのに、巨大ロボットのみならず猛者海龍(モササウルス)だの四十七士だの西郷どんだのといったおふざけが楽しい。三河国周辺の奇人変人も含めて、田中啓文に通じるセンスを感じた。松平竹千代と石田佐吉の、兄弟であり友人であり敵であるという屈折した関係も鮮やかに描かれる。これぞエンターテイメントでありました。