滝浪酒利 『マスカレード・コンフィデンス 詐欺師は少女と仮面仕掛けの旅をする』 (MF文庫J)

金で買えないものは無い。いい言葉だと俺は思う。

何かが金で買えないとすれば、それはそもそも最初から、この世には存在していないのだ。

革命によって王政が倒れ、共和国が興って九年。詐欺師のライナス=クルーガーは、仕事の最中に貴族の生き残りの少女、クロニカと出会う。クロニカの持つ貴血因子(レガリア)によって記憶を封じられてしまったライナスは、仕方なくクロニカに従い、海を目指して旅をすることになる。

第19回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞。〈王〉と貴族による専制社会から自由経済社会へ、急速で大きな変化の中にある社会で、貴族の血を引く娘と詐欺師が海を目指して旅をする。……というあらすじから想像するものとだいぶかけ離れた小説で普通にびっくりした。例えるなら、ヤングキングとヤングアニマルを鍋でかき混ぜて、そのまま煮詰めたような、はっちゃけた混沌とボンクラ味があふれている。この静かで社会派な導入から「首をハチェ(刎ね)る」とか「手斧(ハチェット)神拳、奥義――」*1とか出てくると思わないよ。前半だけでも「これそういう話だったの!?」って3回か4回くらいはなった。

さらにはカニバリズムにスチームパンクに宮廷舞闘(ノーブルクロス)なる謎武道、不死の存在とうたわれ革命で斃されたとされる〈王〉の秘密にと、頭から尻尾まで徹底してボンクラとケレンを詰め込んでいる。実に少年漫画・青年漫画的なエンターテインメント。例えが適切ではないかもわからんけど、「第二の手代木正太郎登場」と思いました。とても楽しかったです。

*1:

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