夢見夕利 『魔女に首輪は付けられない』 (電撃文庫)

「法律ねえ、たしかに大切だ。でもねローグ君」

と、魔女が人差し指を左右に振り、笑いながら言う。

「私がそれを守る必要はどこにもないんだよ。魔女だからね」

かつて貴族が独占していた〈魔術〉が民衆に浸透するに連れ、都市の治安は悪化の一方。事態を重く見た『二大貴族』が〈魔術犯罪捜査局〉を設立し、治安維持に乗り出してから10年、表向きの治安は大きく改善されていた。局長から呼び出された捜査局員のローグ・マカベスタは、いわくつきの任務を命じられる。

第30回電撃小説大賞受賞作。捜査官と刑期数千年の魔女のバディもの。ヒロインの〈人形鬼〉ミゼリアが正確もしゃべり方も概ねアグネスタキオン(ウマ娘)なので、あの感じで脳内再生されて止まらないのがちょっと困った。それもあってか、様々な〈魔術〉を持つ、訳ありの女の子(数千年生きる魔女にして囚人)たちの姿にも今ひとつ緊張感が薄く、スマホゲーみたいだなという感想を抱いた。これが昔ならハーレムものみたいだな、という感想になったかもしれない。

松村涼哉 『ただ、それだけでよかったんです【完全版】』 (メディアワークス文庫)

『菅原拓は悪魔です。誰も彼の言葉を信じてはいけない』

それが昌也の遺書だった。

十二月の急激に冷えた朝、昌也はそれだけを残して自宅で首を吊った。

十四歳の誕生日を迎えてから二週間しか経っていなかった。

男子中学生、岸谷昌也が自殺した。その背景には、被害者を含む四人への、菅原拓による壮絶なイジメがあったという。岸谷昌也の姉であるわたしは、帰省して弟の死の真相を探る。その過程でいくつもの不可解な事実が明らかになってゆく。

「教室の誰一人としてイジメの現場を見た者はいないんです」

「………え?」

秀才で人気者だった男子生徒の自殺、その原因とされた大人しく地味な生徒、誰も見たことがない「イジメ」の現場、「人間力テスト」の実施によって壊れた教室、「イジメ」につきまとうたったひとつにしてあまりに明快なタブー。すべてが噛み合ったとき、教室で進行していた「革命」が完成する。第22回電撃小説大賞大賞受賞作『ただ、それだけでよかったんです』。8年前のデビュー作に加筆修正のうえ、エピソードを追加した完全版。正直きれいさっぱり内容を忘れていたため、普通に新作を読む気持ちで読めた。

エピローグとして作中の8年後、つまり現在のエピソードが追加されたことで、現実社会との地続き感が非常に強くなっていた。この現実の裏には紙一重で地獄が確かにある。イジメに自殺と、気持ちのいい小説ではないことは承知の上で、できるだけ多くのひとに読んでほしいとも思う。デビュー作から一周して、作者の最高傑作だと思います。

kanadai.hatenablog.jp

十利ハレ 『君を食べさせて?私を殺していいから』 (スニーカー文庫)

思春期の恋心ほど、陳腐なものは他にないだろう。

でも、一瞬でも何かに狂える人生なら、それは価値のあるモノだと思うのだ。

誰にも打ち明けられない原因不明の殺人衝動に悩まされていた高校生、有町要は、ある日、クラスメイトの旭日零にその事実を知られてしまう。彼女も同じく、原因不明の吸血衝動と再生能力に悩んでいた。秘密の悩みを抱えるふたりは、互いの衝動を満たすため、秘密の契約を交わす。

狼男と吸血鬼の、普通じゃない秘密の依存関係を描くラブストーリー。ひねた会話のセンスとテンポに、どことなく西尾維新を感じた。個人的にはあまりピンとこなかったんだけど、最初のかったるい感じが、ちゃんとその後のストーリーにつながるのは評価したい。ふたりきりで閉じた共依存が好きなら読んでみてもいいかもしれない。

優汰 『この恋、おくちにあいますか? ~優等生の白姫さんは問題児の俺と毎日キスしてる~』 (スニーカー文庫)

俺の中で、一気に白姫という人間の解像度が上がった。ふと漏らすような態度からなんとか掠め取って察するしかできなかった白姫の本当の顔が、今、本人の言葉で鮮明に映り始める。

知れば、こんなに違うんだ。

学校一の問題児と知られる君波透衣には、父親が所有するビストロを継ぐという夢があった。夢のためなら誰にどう思われようとも構わない。そう考えていた透衣の前にある日突然、父親が強引に組んだ婚約者を連れてくる。その婚約者は、学校一の美少女で優等生の白姫リラだった。

夢を抱いた自由な問題児と、唐突に許嫁だと知らされた完璧な優等生の、キスでつながる秘密の関係。第19回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞のラブコメ。わりと粗い、というか長所と短所のかなりはっきりした小説だと思う。魅力的なキャラクターの成長と変化、少し粗いリアリティラインに、一段落はすれど完結しないストーリー。個人的に気になるところはかなり多かったんだけど、書きたいことを書いた、甘くてまぶしい青春小説だったのは間違いない。ひとまず続きを楽しみに待たせていただきます。

夏海公司 『セピア×セパレート 復活停止』 (電撃文庫)

「気になること? うん、まぁそうだな。今の君の状況を鑑みると、大した話じゃないかもしれないけど」

振り向きながら、コンソールをさらしてくる。

「この子、人間じゃないぞ」

記憶のクラウドバックアップと3Dバイオプリンターの発達によって、生命の復元が可能になった2030年代。テック企業で働くエンジニアの園晴壱は、仕事帰りに異動の辞令を受けた直後、意識を失う。バックアップから復元され目を覚ました晴壱は、本来あるはずの死亡直前の記憶を喪失していた。時を同じくして、全人類のバックアップをロックするという前代未聞の大規模テロが発生し、その主犯として晴壱が指名手配される。

覚えのない死から「復元」されたエンジニアは、身に覚えのないテロ容疑を晴らすため自らの死の理由を探る。最っ高に楽しかった。現代と地続きのスマートデバイスを使っていたプロローグから、3Dバイオプリンターというとんでもない技術に一足飛びに飛躍し、果ては数十億年スケールの、現代SFをすべて盛り込んだ物語へと、とんでもない発展を遂げる。

近未来と呼ぶにはオーバーテクノロジーがすぎる2030年代も、すべての人物の行動原理も説明可能なところも、それでいて非常に読みやすいSFエンターテインメントでありテクノスリラーであるところも、全部良かった。もし他のSF作家が同じテーマを扱ったら、ぜんぜん違う結論が出るんだろうな、と想像できるところもまた良い。今年のベストSFの一冊だと断言できる傑作でした。