シャーロック・ホームズは世界にしっかりと爪痕を残していた。
ホームズの冒険の熱に頭の回路を焼き切られた者は数多いる。
彼らはホームズの叡智が供給されているうちは人間としての精神を維持していたが、ホームズの叡智が絶たれると、その精神を危ういものにしていった。
過激探偵愛者 ――推しであるホームズの死によって精神に異常をきたした者は、一般にそう呼称される。
禁忌の兵器、學天則を駆逐するため、夏目漱石は帝都で活動を続けていた。ある日、森鴎外から新たな學天則が伝染病研究所の地下で開発されているとの情報がもたらされる。新型學天則の開発者は北里柴三郎。學天則の脳として、漱石の英国留学時代の師、コナン・ドイルの脳が使われるという。
表現の自由のため戦う夏目漱石(体は樋口一葉)の帝都冒険アクション小説第二巻。さすがに一巻ほどのインパクトはなかったけど、一発ネタに終わらせることなく、虚と実を織り交ぜた物語を組み立てていたのは引き続き見事。1894年の香港でのペスト流行や、シャーロック・ホームズの死、留学時代の夏目漱石といった同時代の出来事を、うまいこと絡めて、エンターテイメントとしてまとめ上げた手腕は確かなものだと思う。森と北里・高木兼寛、脚気菌と貧民散布論、陸軍と海軍、それぞれの確執と対立を語るパートではまるで司馬遼太郎を読んでいるような心持ちにさせられた(皮肉とかでなく)。歴史エンターテイメントとして、本当に良いシリーズになったと思います。
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